はじめに
現在、世界各地で商船に対する海賊行為が発生し、多くの我が国の船舶や我が国船社関係船舶が、その被害を被っているのは周知のことである。従来から、我が国はIMO等の国際機関に海賊問題の解決を働きかけるとともに、特に海賊行為の発生が著しい地域については、二国間又は多国間の国際協調や協力を実施しているところである。
そこで、今般当事務所では、米国における海賊対策について調査してみた。調査の結果、数は少ないながらも米国とその周辺海域でも海賊行為や船舶からの窃盗行為が報告されていることが判った。また、米国籍船(海軍の戦略シーリフト艦も含む)に対する海賊行為(未遂も含む)も数例報告されていた。
しかしながら、米国籍船や米国船社支配船舶が関係した海賊行為の発生件数は極めて少数にとどまっている。考えられる理由としては、
1 船舶(特に米国籍船)の絶対数が少なく、海賊に遭遇する機会も小さい。
2 いわゆる「危険地域」を通過する航路が少ない
3 米国籍船の船員は、銃を所持していると思われており、海賊も敬遠する。
4 やはり、米海軍がこわい。
などがあげられよう。
この調査報告では、米国籍船及び米国船社支配船舶が海賊行為にあった事例、米国及びその周辺海域における敵対行為の事例、米国船社における海賊対策、等について簡単にとりまとめた。我が国の実状とは相違する部分も多いとは思われるが、今後、海賊対策で米国との国際協調は益々重要になると思われるところ、米国における海賊被害の実態や米国の対策、考え方などを把握しておくことは有益であると思われる。本書が関係各位の理解の一助になれば、と考える次第である。
平成13年1月25日
ジェトロ・ニューヨーク・センター
((社)日本中型造船工業会共同事務所)
船舶部 ディレクター 市川吉郎
アシスタント・リサーチャー 氏家純子