この状況は燃焼のコンセプト2]に合致する。しかし、副室上部には未利用の空気が残るので、連絡口付近の燃焼ガスの噴出が終了すると、副室から噴出するのは空気のみとなり、副室主室の圧力差が小さくなる。このため、主室の燃焼を活発化するためには連絡口を絞って、流速を上げる必要がある。燃料噴射ノズルφ0.16×4−20°の場合では、噴霧角が小さいので、連絡口周辺に燃焼ガスが集中し、未利用の空気が副室上部に残り、単噴口ノズルの場合と同様の傾向が見られる。しかし、多噴口ノズルを使用したことにより、副室内の燃料と空気の混合が改善され、連絡口面積比1.5%においても副室内での燃焼が継続し、噴流として主室へ噴出する期間が燃焼後半まで継続する。燃料噴射ノズルφ0.4×4−30°の場合では、噴霧角がさらに大きく、副室壁面までの距離が短くなり、さらに、燃料噴霧の壁面衝突による混合の改善が加えられるので、副室上部まで火炎に満たされる。したがって、未利用の空気は減少し、燃焼が継続するので、連絡口面積比が1.5%の場合においても燃焼ガスの主室への噴出は強い噴流となり、また、その期間も燃焼終了まで継続するので主室の燃焼が改善される。また、この場合、副室、主室の燃焼終了はほぼ同時期となっている。このため、多噴口ノズルでは、連絡口面積比が1.5%のほうが絞り損失が小さくなるため、図示熱効率は連絡口面積比が1.5%の方が高くなる。
以上のように、多噴口ノズルの場合では副室の燃焼が改善され、面積比が1.5%の場合でも副室から噴出する燃焼ガスは噴流となる。この噴流は主室の燃焼改善に有効であり、図示熱効率を向上させることができる。この場合、副室の燃焼を燃焼期間全体にわたって、継続させることが必要である。しかし、燃焼の後半においては火炎の動きは緩慢で、火炎の中にはすすの生成と考えられる濃い褐色の部分が観察される。これは熱効率の低下、すすの生成の原因となる。したがって、多噴口ノズルを使用した場合において、熱効率の向上、すすの低減を図るには、この燃焼期間の後半における燃焼を促進をすることが必要である。なお、単気筒エンジンにおいて燃料噴射ノズルφ0.4×4−30°の場合に燃料噴射時期を遅延させても図示熱効率が低下しなかったが、これは、副室からの噴流が継続することによる主室の燃焼の改善、圧縮行程中の燃焼量の減少による主室での燃焼量の増加によるものと考えられる。また、単噴口ノズルでは、燃料は副室内の連絡口周辺に特に集中させることができるので、大部分の燃料は早期に燃焼ガスが主室に噴出する。このため、連絡口面積比を小さくした場合では、噴流の流速が大きくなり、これは主室の燃焼を促進する。
なお、単気筒エンジンにおいて試験を行った条件の中では、単噴口ノズル、連絡口面積比0.9%の場合において、最も熱効率が高い。これは、単噴口ノズルでは、連絡口付近に燃料を集中することができるので、早期に全ての燃料、燃焼ガスが主室に噴出すること、そして、小さい連絡口面積比よる噴流の強化および噴流が燃焼終了まで継続し、主室での燃焼を促進した結果である。