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この火送りは人気を得て、左大文字、船型、鳥居、妙法など京都の盆は火文宇で精霊を見送る人で賑わう。

お精霊(しょうらい)さん またおこし

素麺冷やして 待ってるえ

と言う古いわらべ歌が京都にあるそうだが、都として栄えた歴史が長いだけに、人知れず亡くなった無縁仏の数も多く、それらを集めて供養するのが嵯峨野化野(あだしの)の千燈供養である。八千とも言われる無縁仏の石塔が並び、その一つ一つに供養で訪れた人々がローソク付きの細い竹を立て火を灯す。無数の小さな火のゆらめきが、おびただしい数の人生を浮かび上らせる。初秋の夜風に諸行無情を感じるときでもある。

それにしても、盆になると、自分と全く無縁に生きた無名の人々の霊をも祀る風習は、仏教の教えに始まるのだろうか。

 

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29] 念仏寺の千燈供養(京都市)

 

鬼来迎

 

千葉県光町広済寺では、盆に「鬼来迎(きらいごう)」と呼ぶ興味深い仏教劇が村人によって演じられる。

鐃鉢(にょうばち)がジャランジャランと響き、境内の仮設舞台に、エンマ大王を始め、恐ろしき形相の奪衣婆、偶生神、黒鬼、赤鬼らが登場、地獄の様を演じて見せる。

面白いのは、恐ろしい表情の奪衣婆が現れると、乳児を抱いた親が奪衣婆に抱いてもらい、乳児の健やかな成長を祈る風習が見られることで、仏教以前の信仰がまだどこかに残っているのではと思わせる光景に出会う。

 

 

 

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