太鼓を腰に結び、かがり火に照らされながら踊る。ほら貝、鉦の音が夜空に響く。十五才未満の少年が色鮮やかな造花で飾った笠を頭に、精霊を歓迎するかの様に対になって踊る。今は大勢の人が見物に訪れるから、賑やかな夜になるが、地区の人たちだけで踊っていた盆の夜は、風の音にも精霊のささやきを感じるような雰囲気をただよわせていたに違いない。
波切の盆踊り
海に面した漁村、三重県大王町波切(だいおうちょうなぎり)では、送り盆の日、地区の共同祭壇が広場に設けられ、新盆の共同供養が行われる。僧侶の読経が流れる中、南無阿弥陀仏の布とともに、故人の遺品、煙草入れや財布などの小物を吊るした傘を広げ、遺族や故人への想いの強い人が柄を手に広場をゆっくり回る。これを「カサブク」と呼ぶ。生前、人の面倒を良く見た人の傘は、徳をしたって多くの人々が握りたがるので交替が激しい。私が取材した昭和六十一年、戸数約三千人の地区に四八人の新仏が参加し、四八本の傘が揺れ動いた。