2) 島の植生像
湿潤亜熱帯の沖縄県は気候環境(温度量・降水量)から常緑の森林気候区に属する。これから言えば、局地的環境を除き、渡名喜島も森の成立する島である。ではどんな内容の森だったのであろうか。地質環境と植生条件との関係については、既に宮脇(編著:1989)によって、体系づけられている。この植生体系と今回の調査データなどを根拠にして、渡名喜島の丘陵地と段丘の気候的・土地的極相の森について推定する。
非石灰岩域の北地区と南地区の丘陵および段丘(図3-1)では、ボチョウジースダジイ群団のイタジイ林が気候的極相林として成立していた、と考えられる。南地区の石灰岩域の丘陵ではナガミボチョウジ―リュウキュウガキ群団のヤブニッケイ林が土地的極相林として生育していた、と推定される。従って、渡名喜島には地質域と対応する二つ大きな森林帯が存在していた、と考えられる。これは推定された過去の植生像である。
次に現在の主要な在来植生について表3-1、表3-2、表3-3を参考にして粗述する。
北地区の丘陵においてはススキの二次草原が大面積で分布している。その次にはリュウキュウチク群落が急斜面や尾根に広くみられる。この群落は環境圧(乾燥)に強い。西斜面の中腹部から上部にはリュウキュウチク―リュウキュウマツ群落がみられる。ここのリュウキュウマツの活力は低いようである。北斜面にはキダチハマグルマ―ソテツ群落が分布し、海岸植物のキダチハマグルマが上昇分布している。これは風環境や立地の履歴との深い関係を示唆している。現在の半自然植生は過去の段畑跡に再生してきたものである。植生遷移速度は遅いようである。
南地区の非石灰岩域の丘陵にはリュウキュウマツの二次林が広く分布している。谷斜面(風下側)では高木のイタジイ―リュウキュウマツ群落とリュウキュウチク―リュウキュウマツ群落が生育している。ここは生物生産力の一番高い環境である。風上側には、亜高木群落のハマヒサカキ―リュウキュウマツ群落、矮低木群落のリュウキュウマツ―ハマヒサカキ群落とヒメヤブラン―ハマヒサカキ群落とリュウキュウチク―ハマヒサカキ群落が成立している。これらの群落の耐風性と耐乾性の強さはリュウキュウチク―ハマヒサカキ群落>ヒメヤブラン―ハマヒサカキ群落>リュウキュウマツ―ハマヒサカキ群落>ハマヒサカキ―リュウキュウマツ群落の順である。これら矮低木群落は環境圧(塩風・乾燥)の強さが反映された適応形態を表現している。ここの立地環境は風衝環境のため、回復力が最も低いところである。
南地区の石灰岩域の丘陵には亜高木のモクタチバナ―ヤブニッケイ群落、低木のトベラ―オキナワシャンバイ群落、キダチハマグルマ―ソテツ群落・ハリツルマサキ―クサトベラ群落・ハリツルマサキ―ヒレザンショウ群落・ハリツルマサキ―クロイゲ群落・アコウ―ガジュマル群落などの矮低木群落が分布している。ここは露岩地と土壌の薄い環境の反映として、植生の発達が悪く、裸地空間が多い。