日本財団 図書館


日野における祭礼時の演出の特徴は、桟敷窓の開放と桟敷である。桟敷窓は当地域にのみ見られるものであり、また年に一度の祭礼時にのみ開放される。開放された桟敷窓には毛氈が掛けられ、御簾が垂らされる。また前栽には桟敷が組み立てられ、毛氈や座布団などが敷かれる。また桟敷窓が設けられていない、通りに直接主屋が建つ町家においては、デノマやオクノマの建具が外され、桟敷窓と同様毛氈と御簾が垂らされる。また祭礼用の手摺が設けられる例も見られる。こうして日野の町家がケの空間からハレの(祭礼)空間へと転換し、それと同時に各町家にしつらえられた毛氈と御簾といった演出要素が通りに連続性を与え、まちなみ全体も祭礼空間へと転換する。そして町家と街路が一体となった祭礼空間が生まれるが、その一体感をつくりだす装置が桟敷窓であり、通り側の建具の開放であるといえる。日野では高塀の連続するまちなみにおいて祭礼時に街路との関係を待たせようとした結果、桟敷窓という特異な開口部が生まれたものと考えられる。

 

第三節 日野における祭りと町家

 

日野の町家やまちなみは、前述したように近世にその形態が形成され、現在もその伝統的な形態や空間構成が継承されており、桟敷窓や板塀の連続するまちなみが日野独自の景観をつくり出している。また町家については、境界要素としての板塀や土塀の有無に関わらず、通りに面した表側に住居の中で一番格式の高い空間である接客空間であるオクノマと次の間であるデノマの2室が配されるのが一般的である。

そして祭礼時には主屋の通りに面した2室がしつらえられることが明らかになった。祭礼時の町家の空間利用についても、桟敷窓や板塀の有無に関わらず、オクノマには屏風がたてられ、料理が並べられ、接客空間として利用されている。またオクノマの次の間としてデノマが利用されていることも明らかになった。こういった町家の空間利用は現在でも継承されており、新築する場合にも通りに面して床の間付きの座敷を設けるという傾向がみられた。さらに主屋の新築とともに塀と桟敷窓を設けた例もあり、大変興味深い。

主屋と境界要素の関係については、宝暦の大火以前は生垣が主な境界要素であったのに対し、現在の境界要素は板塀となっている。その中でも桟敷窓を設けた事例の多くが、オクノマを高塀で囲う形態をとっている。その他にオクノマとデノマを囲うように板塀が設けられている例と、主屋全面に板塀がたてられ、門が設けられる例がそれぞれ1軒ずつ見られた。これは宝暦の大火以後、日野は閉鎖的なまちなみへと変化する過程において主屋全体を板塀などで囲うようになったが、その後近年道路拡幅などによりオクノマの部分のみを囲うようになったものと思われる。「以前は、主屋全面に板塀がたっていた」というヒアリングも得られており、オクノマとデノマの前面に板塀がたてられた例は、主屋の全面に板塀を設ける形態から、オクノマだけの形態へ変化する中間段階とも考えられ、興味深い。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION