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【かまえ堀】 屋敷林の土台を造る過程で形成されたかまえ堀は、屋敷林に厚みを加えている。生活の裏側でひっそりと淀む水面は、ともすれば忘れられてしまう地味な役割ではあるが、このような景観こそ、存在すること自体に価値がある。

【生け垣】 屋敷林がないか屋敷林規模が小さい住居では、屋敷のめぐりを丈の高い生け垣(高垣)にすることが多い。南面は採光をよくするために丈を低くする例も少なくない。いずれもよく手入れの行き届いた生け垣は生活の豊かさをにじませ、敷地をきれいにふちどる端正なラインが、屋敷の景観を引き締めている。

【門・塀】 屋敷の象徴ともいえる古風な門構えは、地域に根づいた人々の重厚な生活ぶりを表わす注目要素のひとつだ。また、生け垣とは一味ちがった築地塀も、漆喰壁のシャープなラインがひときわ目を引きつける。このような要素は、年代的に新しくても、伝統性を継承するものとして価値は高い。

【小道】 浮野の里地域は、人口密度が少ないこともあって、旧来からの道がそのまま生活道路として継承されているところが多い。こうした、いわゆるヒューマンスケールの小道は、道そのものが風景としての魅力をもち、それだけで歩行者に快適感を与えてくれる。また、沿道の豊かな農村風景と一体化することによって、シークエンス景観(連続して移り変わる景観の変化)の魅力がいっそう高まる。回遊して景観を楽しむ原点としての道が、このようなかたちで残されていることは貴重である。

【石仏】 浮野の里地域には、地蔵や庚申塔、馬頭観音などの石仏が、数多く生活のなかで息づいている。堂や覆屋で守られているもの、野ざらしで田の畦や生け垣の傍らにたたずんでいるものなど、田園風景をさりげなく演出している。このような、ある意味では目立ちにくいものでも、浮野の里の原風景を構成する重要な要素である。

【木立】 田園のなかで、なにげなくたたずんでいるようにも見える木立は、たった1本であっても、平面的な田園景観や水辺に息吹を与えてくれる。ふだんは見過ごしてしまうような木立は、実は、景観をより豊かにする貴重な隠し味の役割を具えている。

【生活風情】 田植えや稲刈りなどの動きのある作業風景、収穫物の天日干しや田でのワラ立て風景などは、時間、季節などの移ろいのなかで浮野の里らしさをにじませるものである。これらはいつも固定的に存在するものではないが、生活風情として景観を豊かに演出したり、ぬくもりを加える要素として欠かせない。

 

 

 

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