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はじめに

 

埼玉県加須市の北東部に位置する「浮野(うきや)の里」は、利根川中流域の氾濫原(沖積低地)に位置する稲作中心の農村地域で、多くの農村で進められてきた圃場整備(土地改良)事業がこの地区ではほとんど実施されなかったことなどから、江戸期の新田開発の地割りや潅漑用に掘られた田堀、クヌギ並木などがみられ、関東平野の伝統的な稲作地帯の景観を色濃く残している。

また、地区内には天然記念物に指定された「浮野」と呼ばれる湿地があり、そこにはこの地域には珍しいトキソウやカキツバタの群落が存在するなど、植物学的にみても大変興味深い場所である。

こうした伝統的な景観や貴重な自然を残す浮野の里も、時代の変化とともに休耕田の増加や産業廃棄物・建設残土などによる水田の埋め立てが目立つようになり、環境の悪化が顕在化するようになってきた。そこで地域住民(地元自治会)を中心に平成2年「美しい村づくり委員会」が組織され、埋め立て等の中止と、当地の優れた景観や自然を守り育てながら、それらを活かした地域づくりを進めていくという方針が打ち出され、「あやめ祭り」の開催、並木復元のための植樹活動、田堀やヨシ原の管理など様々な活動が展開されてきた。平成9年には「美しい村づくり委員会」を発展的に解消して、新たに「浮野の里・葦の会」をスタートさせ、今日に至っている。

本報告書は、これまでのこうした地域の方々の熱心な取り組みを踏まえた上で、一般市民の自然や環境に関する考え方や態度が大きく変わりつつある状況の中、今後これらの魅力ある景観や自然をどのように位置付け、保全管理し、活用すべきか、またそれを担う「葦の会」の活動をどのように展開すべきか、さらに行政はそれにどのように関わるべきか、といった課題に応えようと実施されたものである。

今日、自然環境の保全管理活動やそれらの支援活動に自ら参加したいという市民は急激に増えてきている。また、農村景観など二次自然のもつ様々な価値が見直され、国の政策としてもそれに取り組む動きも出始めている。総合的学習をはじめ、教育分野においてもこうした活動が注目される時代になった。まさに社会は、皆でこうした自然環境や景観を支える方向に向かおうとしている。当地の今後の活動においても、こうした動きを如何に計画に取り込み、組織化が出来るかにかかっているといえよう。

なお、調査にあたっては、地域住民の皆さん、葦の会の会員、加須市の行政担当者など、沢山の方々のご協力を賜った。心より御礼申し上げたい。

 

平成13年3月

「浮野の里」保全・活用調査委員委員会

委員長 麻生恵

 

 

 

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