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調査結果と考察:

カンボジアの2省5地区において、総被験者数246名(男113名、女133名)について上記の検査方法で実施された結果として、メコン住血吸虫の慢性感染による明らかな肝繊維化像が観察されたのは73名であった。また、何らかの肝超音波像の異常が観察された被験者を含めると、113名にのぽる住民に肝病変のある可能性が推察される(表4)。しかし、腹部超音波像上の大前の診断基準による場合で病変像として最も重症化しているステージIII、すなわちモザイク肝を示す腹部超音波像は今回も全く観察できなかった。これら1999年度と2000年度の2回の調査において、カンボジア王国のStung Treng省とKratie省の中で血清抗体検査と糞便検査によって、最も重度感染地域に居住するメコン住血吸虫症患者323名の腹部超音波検査の結果から、メコン住血吸虫症においては超音波診断上、日本住血吸虫症に特徴的にみられるモザイク肝は出現しない可能性が高いと言える。

今回際だったことの一つはStung Treng省とKratie省の結果に大きな違いが出てきたことである。Kratie省のSambour地区とSambok地区においては腹部超音波の観察上、巨大な脾腫が50%以上に見られたのに対し、Stung Treng省の3地区では殆ど観察されなかった。これはKratie、Stung Treng両省においては今回の調査目的に添って調査前の打ち合わせ段階で、より重症な患者を選んで欲しい旨の要望を提示しておいたが、Kratie省は既にそのリストを作成していたのに対し、Stung Treng省ではそのリストが無かったため重症患者の選択ができなかった事が主な原因と思われる。しかし、これらを考慮しても巨大脾腫が50%以上にも上るのは多すぎるため、その原因の一つとしてマラリアを考慮し、Kratie省の分に関しては血液塗抹標本を作製し観察を試みたが、マラリア原虫陽性者は全く検出されなかった。現時点でこの結果に対する明確な解答を持たないが、今回の調査によりメコン住血吸虫症と日本住血吸虫症における臨床症状の差異の一つとしてモザイク肝出現の有無があることが明らかにされた。今回多数観察された巨大脾腫も両種住血吸虫株に起因する病態発現の差異と推測されることから、引き続き腹部超音波による調査が強く望まれる。以上の調査結果の結論として以下のようにまとめることができる。

 

調査結果の要約

1] 1999年度と2000年度の2回に亘り、カンボジア王国のStung Treng省とKratie省における血清抗体検査と糞便検査によって、最も重度感染地域に居住するメコン住血吸虫症患者約323名の腹部超音波検査を実施した結果、モザイク肝の存在は全く観察されなかった。

2] マラリア原虫とメコン住血吸虫に重複感染していると思われる患者が観察された。

3] マラリアによる巨大脾腫のある患者は肝臓自体が右上方に圧迫されるため通常の鎖骨下、或いは肋骨弓下での走査ができず、肋間走査のみで観察せざるを得なかった。

4] 腹部超音波検査における巨大脾腫はメコン住血吸虫症に特徴的な臨床症状となる可能性が示唆される。

 

 

 

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