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IV. メコン住血吸虫症と日本住血吸虫症における免疫応答の差異

 

桐木雅史

松田肇

 

1. メコン住血吸虫症の血清診断に関する考察;抗原について

本プロジェクトにおいてメコン住血吸虫症の血清診断では、日本住血吸虫卵(SjE)を抗原としたELISAにより交差反応に基づいた血中抗体価の測定をおこなっている。今回、若干ながらメコン住血吸虫卵(SmekE)を入手する機会を得たので、それぞれの虫卵を抗原としてELISAを行い、SjEを抗原としたELISAの有効性について検討した。

パスツール研究所(プノンペン)からのメコン住血吸虫症患者血清12検体、カンボジアの3村の住民血清(Sdau村8検体、Hang Khosoun村8検体、Veal Ksach村5検体)、ラオスNadi村の虫卵陽性患者血清2検体、日本住血吸虫症患者プール血清、陰性対照として日本人の血清5検体について、両種虫卵抗原によるELISAを実施した。結果を図3に示した。図には各検体のELISA値の他、パスツール研究所およびカンボジアの3村については一次回帰直線とR2の値を示した。

結果から、パスツール研究所およびSdau村のように、SmekE抗原に対して高抗体価(およそ0.8以上)の範囲では比例的な相関が見られるのに対し、Hang Khosoun村およびVeal Ksach村の検体のようにSmekE抗原に対する抗体価が中等度を下回るとSjE抗原との相関が見られないことがわかった。これが単に抗体価の量的な要因によるのか、あるいは質的な要因によるのか、または住民の免疫応答の特性による違いに起因するものなのか、といった問題については更なる検討が必要である。Hang Khosoun村およびVeal Ksach村はSdau村と同じStung Treng省に属し、高い感染率が予想されながら血清疫学的には低い感染率に留まっていたのはこのような事情によると推測される。

2. メコン住血吸虫および日本住血吸虫の交叉抗原性に関する実験

メコン住血吸虫感染マウス(Smekマウス)血清5検体、日本住血吸虫感染マウス(Sjマウス)のプール血清についてSmekEおよびSjEを抗原としたELISAを行なった。それぞれIgG,IgM、IgA(図4)IgG1,IgG2a,IgG2b,IgG3(図5)の抗体価を測定した結果を示した。IgG抗体について抗体価の比(異種の抗原に対する抗体価/同種の抗原に対する抗体価)は、Sjマウス血清では0.5、Smekマウス血清では0.25であった。さらにIgGサブクラスについても検討した。IgG1は抗体価の比がSjマウスで0.65、Smekマウスで0.57と比較的高い交叉反応を示した。IgG3ではSjマウスはSmek抗原に対しても抗体価1.274と高値であったのにSmekマウスは同種抗原に対しても抗体価0.132から0.421と低い値に留まった。

以上のことから宿主の免疫応答は住血吸虫種により異なり、またイムノグロブリンクラスおよびIgGサブクラスの交叉反応性にもそれぞれ特徴があることがわかった。ヒトにおいてもメコン住血吸虫症に対する各クラス、サブクラス抗体応答の特性を検討することによりより優れた免疫診断が可能になると期待される。

 

 

 

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