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III. 小学校児童および保虫宿主動物におけるメコン住血吸虫症の流行状況

 

松本淳

松田肇

 

1. 小学校児童を対象としたメコン住血吸虫症疫学調査

1) 血清疫学調査

今年度の血清疫学調査では、カンボジア国内のメコン川本流域および支流域に位置する3省7地点において、小学校児童から血清検体を採取した。スタン・トレン省(調査地点:Preah Rumkal・Koh Sneng・SdanおよびPlukの4地点)は、カンボジア国内におけるメコン川の最上流域にあたり、ラオス国との国境に接する。クラチェ省(調査地点:Kbal ChuorおよびKanh Chourの2地点)は、メコン住血吸虫症の高度流行地であることが、これまでの血清疫学調査で明らかになっている。カンポンチャム省(調査地点:Ta Meangの1地点)は、カンボジア国内におけるメコン川の最下流域にあたり、メコン住血吸虫症の流行度は低い地域である。今回は、メコン川の支流であるTonle Kong流域のSdau、同じくメコン川の支流であるTomle San流域のPlukを調査地点に含めた。これは、メコン住血吸虫の中間宿主貝(Neotricula aperta)がメコン川の支流域にも生息することを、これまでの調査で確認していたため、各支流域におけるメコン住血吸虫症の流行状況を明らかにすることを目的に実施したものである。

血清検査の手順・方法は、前回までの調査と同様におこなった。すなわち、国立マラリアセンターおよび各省衛生部の協力を得て、各地域の小学校児童から血液検体を採取した。続いて、各省のProvincial Health Officeの検査室で、財団供与の遠心機を用いて血液検体から血清を分離した。分離した血清検体は、獨協医科大学・熱帯病寄生虫学教室に持ち帰り、日本住血吸虫卵から作製した可溶性抗原を用いた酵素抗体法(ELISA法)により特異抗体価を測定した。

今年度の血清疫学調査で調べた検体数と検査結果を、表1および図1にまとめた。スタン・トレン省内での調査では、メコン川支流であるTonle Kong流域に位置するSdauで、全53検体のうち実に46例が特異抗体陽性(陽性率86.8%)と判定された。一方で、別の支流であるTonle San沿岸のPlukでは、抗体陽性率が32.3%と比較的低く、抗体価も低値を示す傾向がみられた。支流域におけるメコン住血吸虫症の流行の程度には、各支流ごとに大きな差があるのかも知れない。メコン川本流域だけでなく、支流域にも未確認のメコン住血吸虫症高度流行地が存在する可能性もあり、本流域の調査に加えて各支流域についても本症の疫学調査と媒介貝調査を進めてゆく必要がある。

クラチェ省の2地点における抗体陽性率は、Kbal Chuorでは97.1%、Kanh Chourでは7.8%となった。これらの2地点では1998年度にも血清疫学調査をおこなったが、どちらの地点もその時とほぼ同じ結果であった。

 

 

 

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