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I. まとめ

 

本年度におけるカンボジア王国のメコン住血吸虫対策援助計画には、5月21日から6月7日の期間、松田肇、大竹英博、松本淳の3名が派遣された。5月22日には首都プノンペンに到着し、翌23日には保健省、国立マラリアセンター(CNM)及びWHOを訪問し、今回の調査につき協議を重ねた。今回の訪問で保健省長官にはDr. Mam Bunhengが、また国立マラリアセンターの所長にはDr. Doung Socheatが、それぞれ昇任していることを初めて知ることになった。5月24日には空路Stung Trengに飛び、メコン川の本流および支流域の4地域について、学童の血清疫学調査と一般住民の超音波画像診断を実施した。例年よりも調査開始が一ヶ月も遅れたため、現地は既に雨期が到来しメコン川の水嵩が増し始めていた。今回は、メコン川の本流域では、これまでの調査地域の最北端に位置するラオスとの国境に近いPreah Rumkal村をはじめ、Stung Trengに近接したKoh Sneng村、およびTonle Kong川とTonle San川の各支流で調査を実施した。その結果、Stung Treng省内のメコン住血吸虫症の流行は、本流では北上するに従いその程度は高くなり、また支流域でも地域により極めて高度の流行地(Sdau村:抗体陽性率86.8%)が存在することが次第に明らかにされてきた。ラオスにおける本症の流行地がメコン川本流のみに限られるのに比べ、カンボジアではメコン川の支流にも濃厚な流行地が存在することが、この国のメコン住血吸虫症対策を困難なものとしている一つの大きな要因であろう。媒介貝の調査については、刻々と増水しつつあるメコン川を目前にして、今回は残念ながら断念せざるを得なかった。

Kratie省においては、学童の血清疫学調査によりKbal Chuor村が最も流行の激しい地域である(陽性率97.1%)ことを再確認した。本年度の調査では、血清検査に加えて糞便検査を行った。メコン住血吸虫の虫卵陽性者は、Kbal Chuorの1例のみであり、数年来継続して行われているプラジカンテルによる集団駆虫の効果が現れたものと解される。住血吸虫以外の寄生虫としては、鉤虫(陽性率49.0%)および蛔虫(陽性率18.5%)の虫卵が高頻度で検出され、駆虫後に再感染が高率に起こっていることから明らかとなった。適切な衛生教育を行う必要性を痛感する。今後は消化管内寄生蠕虫類に対しても注目し、効果的な対策を推進すべきことと考える。

日本住血吸虫症においては、典型的な肝臓の超音波画像としてモザイク像が見いだされる。メコン住血吸虫は中国やフィリピンにみられる日本住血吸虫とは中間宿主貝が異なる以外は病理、病害などはほぼ同一であるとされてきた。しかし、今回も246名に上る慢性期の患者につき超音波検査を実施した結果、特徴的な画像としてのモザイク肝を示す患者は全く見いだされなかった。すなわち、メコン住血吸虫症と日本住血吸虫症の両者には肝病態の発現に差異がみられる可能性が高まった。

特筆すべきは、今回の調査でイヌの糞便中にメコン住血吸虫の虫卵を確認したことである。カンボジアにおいては、ヒト以外に保虫宿主動物を発見したのは初めてのことで、本症の伝搬に果たすイヌの重要性が指摘される。

 

 

 

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