あらすじ
第一幕 第一場 はげやま
「ひょう、ひょう」と山おろしが吹き抜ける。子狐のぼうが姿を現し「ああれ、もうはあ、日暮れやぜえ。おっ月さまがお供え餅のように出てござったわやあ」と歌いながら、山おろしとたわむれている。
そこへ自分の知恵と力だけを頼りに生きてきた狐のおとっさまが姿を現す。それにしても、なりばかり大きくなっても独り立ちできす、親のすねばかりかじっているぼうが頭痛の種。「昔は一人前の毛並みになっても独り立ちできぬたわけは一匹もおらなんだ」とお説教が始まった。
おとっさまが毎晩ぼうに授ける「食うに困らぬ」虎の巻。「食うには困らぬ秘伝の一は、ひとの褌で相撲をとり、ひとを掻きわけ押しのけて、悪口陰口なんのその、知恵者が勝ちじゃ、勝ったもんが勝ちじゃ、ちゃん、ちゃん、ちゃんちき−」
永く厳しい冬がすぐそこまで来ている。今夜が最後の実地訓練だ。「ほれっ、化けてみよ」二人は、ぽんの、ぽんの。ぽんと、草むらの中に消えた。
第一幕 第二場 みずうみ
かわうそのかわ兵衛と女房のおかわがやってくると、美人に化けた狐のおっとさまが「誰かと思うたら、かわうその大将のかわ兵衛さやねえかなも」と話しかける。かわ兵衛はたちまち色香に参り、女房のおかわは怒り心頭。だが、狐の親子の巧みな言葉とそのあでやかな姿にすっかり丸めこまれた夫婦は「招ばれあい」の約束をさせられてしまう。そして早速、今夜はかわうそ夫婦が御馳走する番。狐の親子は、まんまとご馳走や酒にありついた。かわうそ夫婦の踊りに狐の親子が加わり、愉快な宴が繰り広げられていった。