この研究は新聞でも紹介されました(1999年5月11日、読売新聞 編集手帳)
編集手帳
五月の陽光を浴びつつ、潮干狩りを楽しまれた方も多いことだろう。アサリやハマグリの収穫の上に、「水ぬるむ」を足で感じる風雅な遊びだ◆干潟には、窒素やリンなどが大量に流れ込む。海を汚すそれらの物質を貝たちは栄養として体内に取り込む。つまり海水をろ過、浄化してくれる。干潟が「地球の浄化槽」と言われるゆえんだ◆福島県北部の太平洋岸に松川浦がある。大小の島が点在するこの美しい干潟はアサリの名所だ。近年減りつつあるとはいえ、県水試相馬支場の推定でアサリの生息数は一億個に及ぶ◆アサリ一個が一時間に約1リットルの海水をろ過すると言われる。地球・人間環境フォーラム(財団法人)の試算では、一億個のアサリは一日約七百キロもの窒素を取り込む。松川浦浄化の主役はアサリと言っていいだろう◆干潟ではプランクトンが繁殖し、ゴカイやカニ、貝類が育ち、それらを鳥がついばむ。アサリやハマグリを頂く人間は、自然界の絶妙な食物連鎖とその浄化機能に感謝しなければなるまい。◆干潟や湿原など水鳥飛来地の保全を目指すラムサール条約の第七回締約国会議が、十日から中米コスタリカで始まった。人間は自然とどう折り合っていくか。その「賢明な利用」へ、英知が求められている。