しかし、二、三年同じような状況が続くうちに、同期に採用された人たちは、それぞれ昇進したり、もっと重要な部署に就いたり、転勤するなど、本人にとっては取り残されたような職場の状況になってきたのは仕方のないことでした。
普段は、それでも何となく落ち着いていた本人も、このような、職場内での異動の時期になると、急に落ち着きがなくなり、言葉の端々に自分だけのけ者にされていると思っているようなところが見えました。しかし、職場としては、本人の勤務状況などからみて、現状維持しか仕方がないということを妻に伝えて説得してもらい、やむを得ない時は、通院投薬を受けている医師と相談して、一時的に安定剤を強くしてもらい対応しました。それでも異動の時期が過ぎると、また何となく表面上は落ち着いてきて、余り文句も言わなくなるというようなことを繰り返しながら経過してきています。
考察
職場の三次介入というところでも、少しこのようなことに関連したことを説明してあるかと思います。職場としては、このような事例への対応が一番難しいものの中に入ります。
精神分裂病が治療によって病状が治まった後、病気の前と同じようなレベルでの仕事ができなくなるのは、なぜなのかについては簡単に説明はできませんが、事実、いわば能力低下のような状態に陥ることは、精神医学の現場ではよくみられることです。
そこで職場としては、それを理解した上で、何とか仕事の場を確保するという試みをするわけですが、実際にはなかなか大変なことでもあるのです。念のため、精神障害者への差別でないこと、職場として可能な限りの努力をしているのだということは付け加えておきたいと思います。
一方で、よく言われるように、病気であるということの自覚がないという点ですが、実は病気の性質上、自覚させるのが非常に難しいというのが、正直のところでもあります。