実際に事例で、大変苦労した事案が無事に解決した直後に自殺を図ったという案件があり、少なくともその仕事にかかりきっていた時には、全くうつの症状は認められていなかったということで、意見を求められたことがあります。自殺事故までの業務上の過重、精神的な負担や超過勤務の時間数などを考慮して、公務災害と認定するのが適当という結論になったものです。
自殺と労働災害については、後で簡単にまとめてみることにします。
このような事故を防止するための対策というものがあるかどうかということですが、よくいわれるのは、自殺事故の実数に対して、大よそ10倍の自殺予備軍というか自殺のおそれのある人がいるのではないかということです。
このようなことも考慮して、結局のところ、自殺予防対策というのは、第2巻でも述べたような職務の一次介入や二次介入を含めた、メンタルヘルス対策の充実ということになろうかと思います。そのためには、これから説明するメンタルヘルス教育などで特に上司や監督者といわれる人たちにメンタルヘルスの知識を十分にもってもらうことが大切だということになります。
いのちの電話というのがありますし、これに似たものが外国でもあるそうです。一般的な電話相談ということも考えられますが、できれば職場の相談室などを十分に活用できる態勢であれば更に望ましいことです。ただ実際の問題として、本人が直接相談に行くかどうかということがあります。また、どちらかというと、上司や同僚にそれとなくこのような悩みを打ち明ける、相談するといったことの方が多いかもしれません。人事院の調査でも、自殺者の約半数が、事故の前に何らの形で上司などに相談していたという事実もあります。
よくいわれる「死にたいというものに限って死なないものだ」ということはあてはまらないことも多いので、安易に考えるべきではありません。