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むしろ、学校に行こうとすると、そこに生じてくる「複雑で重苦しい実感」に無条件の関心を向けて初めて、その子が実感している心の営みが理解できるのです。

無条件の肯定的関心とは「相手を所有しようとしない温かさ」(non-possessive warmth)と表現されたこともあります。相手を自分のものにしようと思うと、「こうでないと気に入らない」とか「こうあってほしい」といった「条件」が付いてきます。しかし、そのような「所有」がなく、相手を尊重する温かさに包まれて初めて、相談者は心の実感に素直に開かれていくとするものです。

ウ 共感的理解(empathic understanding)

ロジャーズは、カウンセリングの第一歩は、共感的理解に始まると述べました。また、80年の自著「A Way of Being」の中で、共感的理解とは、価値判断抜きで相手を理解することと述べています。そしてそれは頭で相手について理解することでも、相手に取り込まれて理解することでもないと強調しました。それは、「あたかも相手の気持ちになったように」理解することであり、「相手の内側から相手をとらえよう」とすることだとしました。つまり相談者が経験している感情や個人的意味合いを正確につかみとるということです。最もうまく機能する時にはカウンセラーは内的世界に関する情報を知り、相談者が認知している意味だけでなく認識下にある意味までをも知ることができるとしました。

その人のリアリティーを、他人である自分がどこまで理解することができるか、その理解は、「共感的であって、同感的ではない」というところが重要なポイントです。つまり同感を相手と同じようになってしまうような感じ方であるとすれば、これに対して共感は、相手と「あたかも」同じように感じていながら巻き込まれてしまわないような感じ方ということです。また似たような言葉で同情という言葉もあります。同情とは、あわれみや慈悲、相手への心からの慰めにいたるまで、両者に共通の感情、忠誠心を分かちあうことをいいます。

 

 

 

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