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―実践報告―

わらしな学園で、療育太鼓が開始されたのは、昭和63年度、わらしな学園が開設されてから7年目のことです。利用者の気分転換をはかり、ストレスを解消するためには何がよいかと考えた末、素朴なリズムを持つ『和太鼓』が浮かびあがりました。太鼓の魅力である身体の奥まで響く音が、利用者の身体リズムを刺激して、心身のリハビリテーションへまでつながることを目的として、療育太鼓が始まりました。

1年目はバチを握ることすら初めてでした。リズム打ちをしても、雨がパラパラ降るような雑な音しかでませんでした。太鼓の数も少なく、ジュースの箱に板を張った簡易太鼓で練習をしました。能力差もはげしく、止めようとしても叩き続ける人や、リズムを打てない人などたくさんいました。そこで前方に指揮者をつくり総勢65名の太鼓オーケストラとして出発しました。

5年目には、太鼓の練習が生活に溶け込み、太鼓を叩くことが日常生活の一部になってきました。指揮者も必要ではなくなってきたため、太鼓オーケストラは解消され現在のスタイルが確立していきます。地域にも『わらしな太鼓』が知れ渡り、また理解していただき、発表の場も増えていきます。

その反面、指導面では行き詰まることが多々ありました。それは全員で太鼓をやっていく難しさにありました。利用者の中には、太鼓の好きな人、嫌いな人もいるのではないかという悩みもかかえていました。指導員は、太鼓を強制しないように、楽しみになるように配慮しながら、のんびり、ゆっくり、遊びながらの太鼓も加えていきました。運動会が近い時の応援太鼓の練習や、個人でのリズム披露、障害物競争に太鼓を加えたりと、多くの工夫を加えました。そうしていくうちに、ありのままの姿で素直にみんなで叩く太鼓が一番楽しいことに気付いたのです。

8年目になると、みんなに余裕がでてきました。発表の場が増えた事で、全員の練習にも力が入っていきました。施設の外へ出て色々な人とふれあうことや、人前に出る緊張感を肌で感じることが、気分転換や社会性と礼儀を養えるというプラスの方向へ流れだしました。そして12年目の現在、練習は『明るく、楽しく、元気よく』を目標に、毎週2回2時間程行っており、みんながとても楽しみに参加しています。

オリジナル曲は、地元棄科川流域に言い伝えられている昔話や、ふるさと静岡を題材にみんなで作曲し、覚えやすいように、また叩きやすいように構成しています。全員の成長とともに毎年1曲づつ増え現在は10曲を数えるまでになりました。

昨年度は、静岡市社会福祉協議会主催の車椅子マラソンの応援演奏、特別養護老人ホームでの夏祭り演奏、社団法人静岡法人会主催の地域交流演奏会、静岡県中部地区施設主催の中部地区社会福祉施設合同文化祭、静岡中央警察署主催の防犯フェアーでの演奏、静岡市農業協同組合婦人部総会での演奏、静岡県社交業環境衛生同組合記念式典の演奏では、車をいただきました。

演奏後の『がんばったよ』『まちがえちゃったよ』と話すことも、とても楽しみになっています。みんなで太鼓が大好きになり、生き生きと楽しく叩くことで自信がつき、社会と接点をつくり、豊かな学園生活を送ることができるように、これからも療育太鼓に取り組んでいきたいです。また、このような発表の機会を今後も作っていただき、指導者の研修会なども行なえれば、より一層すばらしい大会になると期待しています。

 

 

 

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