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航行利益と執行措置

 

立教大学教授 兼原敦子

 

1. はじめに

国際海洋法条約では、外国船舶に対して執行措置をとるに際しては、船舶の「航行利益」を様々な形で考慮することを要請している。それは、公海上の船舶に対して、旗国以外の国が執行措置をとる場合、排他的経済水域や領海の沿岸国が外国船舶に対して執行措置を取る場合、海洋環境保護分野に限定されてはいるが、入港国が外国船舶に対して執行措置をとる場合など、各々の権利や管轄権の対立および競合の態様は多様である。国連海洋法条約上の、豊富な関連規定のすべてについて検討をくわえることは、本稿の範囲を越える。そこで、とくに、排他的経済水域沿岸国による外国船舶に対する執行措置と船舶の航行利益の保護という問題を中心として、国連海洋法条約の関連規定とそれらの規定趣旨、そして、国連海洋法条約の基本原理としての一貫性の有無を検討することが、本稿の目的である。

具体的には、排他的経済水域における沿岸国の漁業法令の遵守を確保するための執行措置とその要件、海洋環境の保護と保全の分野における沿岸国による執行の要件などや、船舶の早期釈放制度が対象となる事項である。これらの事項ついて、そこにいう「航行利益」の内容、航行利益を保護する根拠、沿岸国の権利および利益との調整の原理について、かりに、国連海洋法条約上で、条文の根拠があるとしても、それは説得力があるのかなどを、あらためて検討するというのが、本稿の趣旨である。以下では、まずはじめに、国連海洋法条約上の、航行の自由、航行利益、旗国主義についての基本的な構造を、簡単に確認しておくことにする。

 

 

 

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