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はしがき

 

1 私共の「海洋法調査研究委員会」は、ここに「周辺諸国との新秩序形成に関する調査研究」の第二年度の報告書を刊行することになりました。

国連海洋法条約が、わが国について公布施行されるようになってからでも、すでに5年となり、同条約の関係規定の解釈と適用について具体的な実施をめぐる実例も数多く集積しました。とりわけ海上保安の分野では、海上での法執行措置をめぐり他国との間の紛争事例が、国際的にみても増大しております。同条約はもちろん、これを受けて国内で実施するための関係国内法令を整備したわが国にとっては、多発する海上保安国際紛争事例にいかに立向かうか、そのための法律論の整備を進めることが、重要な課題になっております。

 

2 海上保安に関する国際紛争としては、外国の船舶・乗員に対して沿岸国が関係国内法令に基づいて行う執行措置について、その当否を争うものが少なくありません。実際に近年、国内・国際の裁判に付記された事件に限ってみても、排他的経済水域での外国船舶の活動の取締り、たとえば漁業活動と資源保存とか、海洋汚染の防止、保証金の提供を条件とする拿捕・抑留中の外国船舶と乗員の釈放などの事案があります。また、密航・密入国や規制物質の密輸入と不正取引の規制とか、接続水域からの追跡権の行使など、新しい要素を含む問題もあります。さらに、沿岸国の領海または国際海峡でのいわゆる海賊・武装強盗に対処するための捜査共助とか、便宜置籍船による漁獲物の転売と洋上積替えを規制することなど、新しい外交上の措置に要する事例も少なくありません。

これらの事例は国内法令に基づく海上執行措置を伴うものであり、それが海洋法条約の基準や条件に適合するかどうかをめぐって、沿岸国と被疑船舶の旗国との間で判断が対立し紛争を発生させるのであります。沿岸国の立法・執行管轄権と航行自由に基づく旗国管轄権の対立ともいえましょう。

 

 

 

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