胸周辺の筋肉はそれと同じ緩んだ状態で、(もし腹筋と横隔膜の援護がまったく無ければ)音声は数秒で途切れてしまうでしょう。
これが「胸式呼吸は吟詠(歌)に向かない」最大の理由、つまり呼気をほとんど制御できないからです。この解決策は「腹筋呼吸」、しかも音の強弱や、アタック(硬起声)を自在につけるためには、腹筋、横隔膜などの素早い対応が必要となってきます。
吸う、吐く、すべてハラ芸
四十歳代で東京芸大声楽科へ入学した女流作家が、仰向けに寝た自分の腹に電話帳を載せ、一冊、二冊と徐々に増やしていき、腹式呼吸が速く、スムーズにできる練習を重ねたそうです。職業にせよ趣味にせよ、声を出す者の基本練習といえるかもしれません。
息を吸う吸気は、時に節と節の間の短い時間に一瞬に行う必要があります。便宜的な方法としては、ミゾオチのあたりを瞬間的に膨らませるといいでしょう(このとき肩の上下は厳禁)。何回も練習しているうちに、一度にたくさんの空気を取りこめるようになる、同時に腹筋の強化につながります。
発声の上で腹筋の働きが強調されるのは吸気より、むしろ「呼気」のほうです。硬起声、音量の変化、同じ音量の持続など、すべてが腹筋とその周辺の筋肉によって支えられると言っていいでしょう。
この辺からの話は「2]共鳴」に大きく関わってきます。結論は、大きい声は“力”からは生まれない、ということです。何ホーンの声が出るかを競う「絶叫コンテスト」とか言う催しがテレビで放送されますが、あれが「力」で押し出した声の典型、いわばガナリ声です。あれは、どう転んでも声楽には向かない、と誰でも思うでしょう。しかし実際にはあれに近い声の出し方をしている初級、中級の吟者がいらっしゃる。
●背筋を強くする運動
〔プログラム作成・協力・東京B&Gセンタースポーツ課〕