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Seminar

12月号のセミナーから

緩和ケアにおける音楽療法

 

昨年暮れの12月19日、聖路加国際病院のトイスラー記念ホールにおいて、カナダの病院で音楽療法士として活躍する近藤里美さんをお招きして、緩和ケアにおける音楽療法の実際をご紹介いたしました。その概略をご報告いたします。

 

講演1.

日野原重明先生の講演から

先生は、ビデオを使って3人の患者さんの症例をご紹介くださいました。

元英国大使の平原毅氏は、亡くなられる2週間前に、入院している聖路加国際病院緩和ケア病棟のパーラーで、53回目の結婚記念日を祝われました。準備にあたった医師やナースやご家族の前で、ロシア民謡の「ステンカラージン」を原語で歌う氏の表情からは、静かな安らぎが感じられました。

50代でがんを告知された音楽家の女性も、最期の時まで音楽を心の支えとしました。がん末期のさまざまな症状に耐えながら、ご自分が結成された中高年のコーラス隊の指揮をとられる様子が映し出されました。

ピースハウスホスピスを終の棲家に選ばれたチェリストの徳永健一郎氏は、ご自分の最期のコンサートをピースハウスで開かれました。ご兄弟や愛弟子の方たちに囲まれたこのコンサートは、徳永氏の無心に音と向き合う姿がひたすら印象的でした。

 

講演2.

近藤里美さんの講演から

近藤さんは、カナダのバンクーバ市、セントポール病院の緩和ケア病棟や集中治療病棟で専任の音楽療法士として活躍されています。ご自分の体験をもとに、集中治療室における若いエイズ患者さんとのかかわりや、音楽によって生き生きとした表情をとり戻した痴呆の患者さんの例など、ビデオや実演をまじえてお話しくださいました。

(先生のご活動は、追って「地域医療と福祉のトピックス」の欄でご紹介いたします。)

 

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ピアノで弾き語りする近藤さん

 

日本における音楽療法の実際

2人の講師のお話の後、ピースハウスホスピスと聖路加国際病院の緩和ケア病棟における音楽療法の実際が紹介されました。

ピースハウスボランティアの山下いづみさんは、患者さんの書かれたピースハウスの詩『魔法の王国』に曲をつけられ、弾き語りされました。鈴木玲子さんは音楽療法をご希望になる患者さんの病室を訪れます。目のご不自由なある患者さんは、ライアーの音色に慰められて、静かな終焉を迎えられました。

くらしき作陽音楽大学教授の篠田知璋先生は、「雪の降る街を」をピアノで弾き語りする中で、最期を迎えられたピースハウスの患者さんを回想してお話しくださいました。

また、聖路加国際病院の緩和ケア病棟では、心療内科の医師である太田大介先生や病棟ナースの立石圭子さんの協力を得て、ボランティアの高須克子さんを中心とした音楽療法がなされています。音楽を用いることは、現代医学や薬では治療し得ない癒しを、患者さんに限らず、ご家族や医療スタッフにも与えていることが報告されました。

 

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日野原先生の司会によるパネルディスカッション

 

 

 

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