日本財団 図書館


訪問看護ステーション中井から6]

 

在宅ケアの24時間連絡体制について

所長 吉村真由子

訪問看護ステーション中井の特徴は、癌の方のご利用が多いことです。当ステーションは、ピースハウスと連携していますが、それのみならず、この2年で、地域のさまざまな医療機関の方々に私たちの特徴をご理解いただき、多少離れた地域でも癌の方であれば是非にと紹介いただく機会が増えたことがあるからだと思っています。

先日も、ある病院の先生からお電話があり、「お正月を自宅で過ごしたいという癌の末期の方をお願いしたい」というお話であったため、急いで病院に向かい、打ち合わせをしました。退院直後に訪問し、その数日後に1度だけ携帯に電話があり、訪問しましたが、その後落ちつかれて、何とかお正月をご自宅で過ごしていただくことができました。

 

入院中の患者さんが在宅に移行するときなどに、私たちは、24時間連絡体制について次のような説明をします。「いつもと違った様子や心配なことがあったときには、何時でもけっこうですから携帯電話にご連絡ください。必要に応じて訪問しますし、主治医への報告が必要なときは、私たちから連絡をとります(主治医の指示で私たちが対処できる場合もありますし、必要とあれば往診をしてくださる先生もいらっしゃいます)。主治医に連絡した際、救急外来を受けるような指示がある場合には、救急車を手配します。みなさんからの連絡を24時間受け付けるため、私たち看護スタッフは、携帯電話の当番を常時2人ずつ決め、交替しながらいつでも誰かが電話に出られる体制をとっています。そしてお電話いただいたらできるだけ早く伺えるように、夜間や休日には自宅か事務所周辺にいるようにしています。日頃の訪問では、急変時を予測して、なるべくご家族だけでも対処できるように説明しながらケアをしていますが、いざとなるとあわててしまうかもしれませんので、不安なときには何時でも遠慮なくお電話してください。」

 

最近は、病院ではなくご自宅で最期を迎えたいとはっきりご希望を言われる方が増えてきており、またご家族もご本人のお気持ちを尊重したいという傾向が強まっています。そのためか、1カ月に28件も夜間・休日に訪問した月もあります。深夜や明け方に状態が変わることも多く、しかも、「痰がどうしてもとれない」「苦しいと言っている」「いつも通りにやったのに点滴が止まってしまった」等々、病院のナースコールのように急いで行かなければならないことも多いのです。自宅待機しているスタッフは、何時であれ、飛び起きて出かける準備をしていますが、それでもお宅に着くまでには、病院内とは違って時間がかかります。こうした訪問看護の場での「ナースコール」に対して私たちは、まず状況をうかがい、ご家族にできることを説明した後に、急いで向かうことで、SOSに応えていく道を模索しています。

 

癌の末期の方を看ているご家族は、ちょっとした変化や徴候に敏感にならざるを得ません。いつもと違う様子に、「もしかしたらこのまま…」という不安が強くなってしまいがちです。「自分たちのせいで寿命が縮まるようなことになったらどうしよう」とか、私たちが想像もつかないようなことを心配されていることもあります。すでに私たちにはできることが少ないような状況であっても、「見に来てほしい」というご要望があれば、なるべく伺うようにしています。ご家族の話を聞いてほしいという場合や、このようなやり方でいいのでしょうかという確認だけということもあります。ご自宅で看ていらっしゃるご家族が感じておられる責任というのは、当人でなければ分からないくらいの大きなものだと想像します。そのような張りつめた中で、ほんの少しでも肩の荷をおろしていただければという思いで、私たちは、24時間の連絡体制をつくっていこうとしています。

介護保険が始まり、ますます24時間対応のニーズが高まる中、ご利用者・ご家族のSOSを受けとめるためにも、今後の課題としては、24時間連絡体制に携わる訪問看護スタッフ自身が日常的な過重負担からいかに解放されるか、一時でもその負担を分け持つ「余裕」をいかに創り出すかという問題を考えていく必要もあるでしょう。つまり、在宅ケアをする家族も看護スタッフも燃え尽きないためにという課題です。この課題についてはまた別の機会に述べたいと思います。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION