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教育医療

Health and Death Education Nov. 2000 vol.26 No.11

 

89歳、新たなる挑戦

 

私は2000年10月4日に、満89歳の誕生日を迎えました。思い返すと20歳の頃、肺結核で1年間の療養をやむなくされていた時には、まさか自分が60歳を越してもなお生きるなどとは考えもしませんでしたし、還暦の時には、80歳を越えることなど予測もできませんでした。ところが、いつの間にかもうすぐ卒寿を迎える年となり、それを越したいと願う心境にもなりました。

さて、89歳になった今、私には新しい出来事が起きようとしています。

その1つが、今秋旗揚げした『新老人の会』運動です。この運動によってどんな成果が日本にもたらされるか、考えるだけで心が躍ります。

私は医師として、病を癒すだけではなく、心身ともに健康を保っていくことが大切だと考えてきました。そのためには、よい生活習慣が不可欠だと考え、それを提唱してきました。『新老人』の方たちは、まさに私の提唱通りに生きてこられた方たちです。この方たちの生活習慣や健康データを分析することで、どのような習慣が健康寿命につながるのか、疫学的な検証ができます。これは新しいかたちのボランティアであり、後生の方への素晴らしいプレゼントです。

75歳以上の人でも、心身が健康で、今も現役で仕事をしている人はたくさんいます。私はこの人たちのもつ能力を何とか活用して、被介護者としてではなく、社会の生産力を担う人として活躍していただきたいと考えています。また、行きすぎた商業主義や個人主義に歯止めをかける強力な圧力団体としての活動も期待しています。今年75歳以上の人というのは、55年前の第二次世界大戦を20歳の頃に体験しています。戦争がどんなに悲惨なものであるか、生の体験を伝えることができるのは、この方たちしかありません。年代や国を越えてひととひとが結びつけば、実現可能な平和運動となります。ひとり一人の生き方こそが、次世代の方へのメッセージです。今まで挑戦しなかった事業や研究、創作、芸術活動、学習などどんなことでも今からスタートしてもらいたいと思います。若いときに比べれば、確かに記憶力は衰え、身体的能力も落ちていることでしょう。しかし、若い人が1回でできることを3回でも4回でも繰り返し努力してください。そして5年後、10年後にその成果を発表していきましょう。人生の秋をできるだけ長く楽しく生き抜いててほしいと思います。

もう1つは、米国の哲学者が書いた絵本で、80万部も売り上げた『葉っぱのフレディ』を題材に、戯曲を書き上げたことです。今まで一度も戯曲を書いたことのない私が、たったの2日で、20分で読めるストーリーを、1時間半の音楽劇に脚色したのです。この話が出版社の社長からあった時、私はそれならば三世代の家族が一緒に見られるようなものに仕上げたいと思いました。そして、これに音楽もつけるという発想は、さらに私にエネルギーを与えてくれました。私が、89歳という年齢になっても、劇の脚色がすっとできてしまったのは、自分自身でも驚きでした。

私は若い時から、いつでも、何にでも好奇心をもち、若いときには山へも野へも出かけ、音楽を楽しみ、演劇も楽しんできました。

いつまでも前に向かって歩み続けることが私の元気の源であり、そうできたことに本当に感謝しています。毎日が感謝の日々であり、学びの連続です。次は何をやってみようかと今でも考え続けています。

LPC理事長 日野原重明

 

 

 

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