この破綻は人生の危機であり、通常の対応能力では解決することができない状況です。その時、人は「何故自分だけが」、「私は何か悪い運命にあるのだろうか」、「生きている意味があるのだろうか」といった実存的な痛み、つまりスピリチュアルペインを経験します。
援助者の姿勢
援助者はスピリチュアルペインを体験している人が、スピリチュアルケアサイクル(図下)に入れるような援助をしなくてはなりません。
まず相手に正確な自己認識を持たせる必要があります。人には限界があり、そのことで痛み、苦しみを持つ存在であると認識させることです。そのなかで、正しい自己ニーズ、人との関わりあいの必要性を感じてきます。人はひとりでは生きてはいけないということを理解します。このことが土台にあって、癒しの関係を築いていくことが大切なのです。
援助者は、スピリチュアルペインサイクル(図1)に陥っている患者に対して、スピリチュアルケアサイクル(図2)に入れるような援助が必要です。それは、患者との癒しの関係を築いてゆくプロセスです。
この関係を築いていく中で、援助者が心得ておかなければならない3つのポイントがあります。それは分離、依存、利用です。まず分離ですが、患者は自分にとって都合のいい方法で人を良い悪いに分けますが、援助者はそれにのらないことです。それにのってしまうと、患者にとって援助者は当然良い人ですから、過度の依存が始まります。また援助者は患者に「できない」「知らない」という言葉を言い出しづらいものですが、援助者にも限界があることを患者に知ってもらうことで、過度の依存を防ぐことができ、患者の自立を助けるこができます。
最後に利用ですが、依存されると援助者は、そこで自分の人間関係のニーズを満たそうとします。知らず知らずのうちに患者を利用して自己の欲求を満たしてしまっていると、患者に精神的なダメージを与える結果になります。これらのことを踏まえ、患者へのサポートと過度の依存にならないように、バランスよく対処していくことによって、スピリチュアルケアサイクルの援助をすることが可能となるのです。
1つ1つのケースによって対応はそれぞれ異なりますが、皆さんの現実の関わりの中で、これらのことを生かしていただきたいと締めくくりました。
魂を支えるケアとは
日野原重明
(LPC理事長)
私は医師として多くの人の最期に立ち会ってきました。人は生を得て、その瞬間から最期のステージへと歩んでいきます。死の前では、医学はあまりに無力です。しかし医師や看護婦は病を治すことはできなくても、痛みや苦しみを和らげることはできます。最期の時を痛みや苦しみの中で過ごすのではなく、考え、感じ、感謝し、穏やかに祈りの時をもち、家族や愛する人と時を共にしていただくことはできます。
人は病むことで健康の尊さを身をもって感じます。命の深み、人の英知を越えた自然の大きな力に思いを馳せます。絶大な力によって生かされている存在であることを学びます。その生かされている人という器に、美しい水を注いでいくことが本当の喜びです。大切なのは器ではなく、その中身です。器は朽ちても、美しい水は大地にしみ込み、自然と1つとなってまた巡ってくることでしょう。
魂を支えるケアというのは、人という器から命の水が溢れるのを両手で受け止めるように、患者さんの側に一緒にいることです。患者さんの知力、自力が最高に高められるように手当をすることです。医療やケアの本質は、患者さんと心を共にし一緒にいるということです。その上で、医療知識と医療技術をどのように患者さんのニーズにあわせて応えていくか、演出するかが医療や看護、また介護者のアートだと思います。
病む人との関わりは、裸の人間と接することです。患者の心に触れる、魂を支えるケアの根本にあるものは、自分自身の感性です。自分自身を高めなくてはできません。その上で専門家意識を取り払い、チームで1つの同じ目標を目指し、患者さんの支えになるよいケアを展開してくれることを私は心から期待しています。