日本財団 図書館


カタストロフとは心理的に非常に緊張したり、不安が強いときには、非常に混乱してその人の能力のレベル以下のことしかできなくなる状態です。

母親にしてみれば、娘さんが側でじっと見ていて、時々口を出すだけというのでは、非常に屈辱的な思いをしている。怒ってもいる。どう着たらいいかわからないので困惑もしている。そういう状況では、1時間たっても2時間たってもちゃんと着られなかった。ところが、順番に渡してもらうと、5分以内で着ることができるのです。いままでの能力が10あったのが、3くらいになっていた。それを順番に渡したら、5か6のところまで戻ったのです。

娘さんは聡明な人で、自分は着替えだけでなく、根本的に考え違いをしていたかもしれないと話して帰りました。こうして1ヵ月以内に、弄便は消え、夜間せん妄も薬で改善しました。娘さんは、2〜3年前の母親の笑顔が戻り、以前の母親に戻ったとうれしそうに話して、3ヵ月くらいたったときに、これなら自分でやっていけそうだと外来も終わりました。

 

一緒に考えていく

異常行動というと、私たちはすぐに対策を考えがちです。差し迫っていることが多いので、緊急な解決策が求められるからです。しかし、このケースは何ら対策をたてませんでした。なぜ私は対策にあまり目を向けなかったかというと、1年間それで悩んでいたというのですから、1回相談を受けた私がすぐにそれを解決する必要はないだろう、そっちはちょっとおいておこうということです。

えてして、相談されると解決策を提示しないと信頼されないのではないか、もう来ないのではないかとこちらが不安に陥ります。そうすると、薬をたくさん出すとか、手足を縛るといった対策を考えてしまう。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION