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その話を聞いていると、アルツハイマー病の診断は誤診だったかと思うほど、リアルに詳しく話してくれました。ところが、その後2回、3回と会うと、毎回会うたびにその話なのです。しかし、戦争が終わったときにその部隊はどうなったか、その部隊に入る前にどこにいたのかはわからない。そこの記憶だけがポツンと残っているのです。

 

血管性痴呆、老化現象

ところが血管性痴呆や老化現象では、「小学5年の運動会のリレーであなたが転んだからビリになってしまったのよね」と言われると、パッとそのときの光景を思い出す。担任の先生の名前や当時の家族の様子も思い出すように、横へ横へと回想が広がっていく。一つのエピソードの回想をきっかけに回想が広がりをもつという特徴があります。

しかしアルツハイマー病では、それが断片的にしか残っていない。したがって、いくつかのエピソードをその人の人生の歩みとして配列できないのです。どこに住んでいたとか、仕事が何であったか、それから戦争に行ったとかいうことをヒストリーとして順番に言えなくなっていて、一つ一つのことが断片になっている。ということは、自分の人生における意味が失われているということができます。

これは、一般的な記憶障害と比べてみると特徴的です。あまりいわれていませんが、アルツハイマー病は初期の段階から長期記憶の障害があります。それは丹念にその人の生活史を聞くと浮き彫りになります。忘れるようなことではないこと、忘れるはずのないようなことを忘れている。たとえば自分の子どもの数や、初めに就職した会社名や、その当時の住所が言えない。その一方で、先ほどお話ししたようなあるエピソードを詳しく覚えているというちぐはぐさが浮かび上がってきます。

 

 

 

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