私たちのからだは土でできた器にたとえられます。齢をとったり、病気をしたりするにつれ、器にひびがはいったり、ふちが欠けたり、水が漏れたりしてきます。土の器はすべての生き物と同じように有限なものです。しかし、あらゆる有限なものの中で、その器の中にあるこころというものは不滅です。病む人のこころを考慮した医療をホーリスティック医療、日本語では全人医療といいます。それはすなわち、からだとこころを対象とします。そしてもっといえば宇宙の広大な運行に思いを馳せたりしますと、人間の知恵は本当にわずかであって、絶大な宇宙の力が現存する。それは何か無限の存在を考えないと納得できないような奇跡です。知識としては理解できても、あの宇宙飛行士が感じた感動というものは、知識ではなしに、現実の中に否応なしに迫ってくる霊感です。それを英語では"inspiration"といいます。"inspire"というのは「空気を入れる」という意味です。旧約聖書の創世記によりますと、神様が塵を練って、そこに息を吹き込んだら、そこにアダムが生まれたと書いてありますが、神様から気をもらって人間ができた。私たちは宇宙の荘厳な理(ことわり)の前でひれ伏す、その感じがinspirationです。そして、spiritというのは先にもお話ししたとおり、“息”とか“空気”のことなのです。この空気が与えられて私たちが充実してくる。そういう状態が、人間としてのいちばん実存的なあり方なのです。
見えないものに価値がある
からだはいつの日か、老い、そして病んでいきます。そして人間はすべて死の種をその身の内にもっているのです。