5. 結果の検討
5.1 風の場について
船舶観測に基づくスカラー風速が年々大きくなってきていることは、様々な研究で指摘されている。しかしこのような風速変化が起こったとすると、風速以外の気象要素にも大きな変化が現れるはずであるが、花輪等のグループの海面気圧場を用いての研究によれば、船舶観測による海面気圧から推算した北太平洋の地衡風速に顕著な増加傾向は認められていない(Hanawa and Yasuda, 1999)。
考えられる要因としては、観測方法の変遷、船舶の大型化などが挙げられる。たとえば、戦前は海面状態を見て風力階級を決めて通報していたのが、戦後、風速計の観測による風速の通報へと観測手法が変化していること(例:Woodruff et al., 1984)、特に戦後に船舶の大型化が進み、大気境界層の上部の風速を観測するようになってきたこと(例:Ramage, 1987;轡田、1997)、などが指摘されてきている。
従って、風速の人工的と思われる増加傾向を何らかの方法で補正した上で風速データをフラックス計算に利用しなければならないが、個々の観測値を直接補正することが可能かどうかは十分検討しなければならいと思われる。
5.2 比湿差の空間構造について
比湿差は海面水温、気温、露点、気圧から求められるが、これらの観測数の空間分布を調べたところ、海面水温・気温・気圧・風速などは1890年〜1949年の期間に主要航路帯で5000〜10000個/5度格子以上、その他の海域でも概ね1000個/5度格子以上存在するのに対して、露点の観測値は日本周辺と南方海域および北米ハワイ間の航路帯で5000個/5度格子以上存在するものの、それ以外は1000個/5度格子以上となっており、ほとんどの海域で露点観測数は海面水温などの50%以下となっている。露点観測数と他の気象要素の観測数がほぼ同数となるのは北緯10度〜20度東経130度〜西経160度のみである。
厳密には対応しないものの、この露点観測値の分布は両期間の潜熱の比の分布に類似しており、両期間の潜熱の値が近い海域は露点観測数が他の気象要素観測数とほぼ同数の海域に対応している。このことは、露点観測が他の気象要素より少ない海域のほとんどで潜熱フラックスの過小評価になっていることを意味する。潜熱フラックスが小さくなる理由としては、露点(湿度)観測が特定の気象条件の下でのみ実施されたのではないかと推定されるものの、今後詳しく検討する必要がある。
なお、露点以外観測数密度は個々の気象要素の長期平均を議論するには足りていると考えられる。実際、露点以外では気象要素の長期平均値の分布の様子は、これまでに知られているそれらの気候学的特徴と大きく矛盾するようなところや不自然なところはほとんど見られない(図は示さない)。