もし衝突の危険のある相手船があるときには、その他の船が新しい危険船にならないようにしながらその危険船を避けるという操船が必要になる。ARPAでは、そのような操船方法を見いだすための試行操船と呼ばれる操作ができなければならない。これは変針又は変速、あるいはその両方を操作者が仮に設定をして、その設定値による自船付近の未来の状況を表示面上で短時間に変化させてシミュレーションをすることである。もちろん、このシミュレーション中もARPAの正規の追跡などの動作は継続されていて、いつでも本来の表示に戻すことができなければならない。
以上がARPAの機能と動作の概要であるが、基本的には、レーダーの映像にプロッターを用い、他船の位置を3分〜6分の間隔でプロットすることによって他船の自船に対する航跡、すなわち、CPAとTCPAを知り、衝突の危険性の有無を判定することにある。このレーダーによる衝突回避のプロセスをチャート化したものが図6・9である。
ARPAの性能要件についてはIMOの総会で『自動衝突予防援助装置(ARPA)の性能基準』(決議A823)として決議され、これを受けて国内法規としても「船舶設備規程」及び「無線設備規則」の中に制定されている。詳しいことについては装備艤装工事編を参照されたい。(既存船は決議A422による。)
6・4 システムの基本概念
図6・9にレーダーをセンサーとして衝突を回避するプロセスを図示したが、このプロセスを実際に機能させるARPAの動作の概念を機能別に大別すると、以下の四段階に分けることができる。
6・4・1 第一段階:レーダーの情報からの目標の検出
これは、レーダーのプロッターに目標を人手でプロットすることに相当するものである。いま自船の周囲に船舶が一隻あったとすると、これはレーダーで検知することができる。すると、この目標の信号はデータ処理器で処理をされて、自船に対する方位と距離の信号として電算機に転送される。すなわち、この第一段階は必要とする相手船の位置のデータを電算機へ転送する機能であって、レーダーの情報を量子化する機能のほかに、雑音や船以外の情報を除去する機能等が含まれている。