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10-6 実船計測に関する考察

これまでの3ケ年にわたりIEC60945関連の基準に対して4種類の共試機器を対象に個別の調査を行ってきたが、実船における電磁環境の調査を行うことで実際の動作環境における状態が考察できる。調査した船舶は船齢が少ない総トン数1万トン級のカーフェリーで、IEC60945の対策がほとんどなされていると思われる。実船調査は搭載される機器が狭いスペースに集中して設置される環境で実際の運航状態での妨害や影響、いわゆるシステム雑音に関する調査や、連絡用のトランシーバや船内に持ち込まれる携帯電話などに対するイミュニティも調査した。実船計測にあたっては船橋内、暴露甲板、機関制御室および機関室内に計測用アンテナを設置した。特に船橋内ではアンテナや計測用ケーブルが通行の邪魔にならないことと動揺で転倒することの無いように固縛するなどを考慮した。また計測用の計器やコンピュータのディスプレイの明るさが夜間の航海当直において障害になったので、運搬用のシートで覆いをかけるなど応急対策を施した。このように計測にあたっては船側に多大な御迷惑と御協力を戴けたお蔭で貴重なデータを収集できたことに深く感謝する次第である。

定期運航している大型フェリーの着岸から離岸までの極めて混雑している慌しい中での計測機器の設置など準備は大変であったにもかかわらず、計測担当者は汗まみれで船内の各所にアンテナと計測機器を設置した。予備計測を行いながら出港前後の電磁波環境の計測を行った。これまでの計測はオープンサイトや半電波暗室での計測など準備万端で行い、不具合部分があれば徹底的に改善して計測作業にあたるわけであったが、船舶では床面以外からも壁や天井から反射がある環境で、しかも運航中の実船という環境では外部からも内部からも時々刻々変化する影響があり、即座に解決できない難しいことがある。しかし、計測は続けなければならない点でデータの信頼性に不安を感じることがある。今回の実船計測では、原因不明の強い電磁波が観測された。その電磁波は放送波よりも強大なスペクトルであり、周波数も移動するものであった。ようやく原因となっている放射源がSバンドレーダとわかり、レーダを準備状態(Stand By)にしておいて戴くことで計測は続行できた。このSバンドレーダに関する詳細は第9章に述べられているが、測定現場においては即座には原因究明の難しい問題が多い。しかし、原因がわかれば対策が立てやすい。RO-RO船における調査においても検定試験に合格している機器から基準を超える電磁波の放射があったが現場では計測機材や計測環境その他配線等の設置工事状況等も調べなければならず原因究明が出来なかったことがあった。妨害の発生原因がいくつかの機器が関係して、複合した原因で発生するシステム雑音であると、機器間の組み合わせ、距離、配線の方法などで状況が変わるので原因の究明は一層難しくなる。

今回の計測でも、船橋での計測で一部にIEC60945の基準を超える妨害波が観測されたが、実船では発生源と原因を突き止めることは容易ではない。機関制御室および機関室での計測結果からは、直接的に空間伝搬で船橋まで影響を与えるものはまず無いと考察される。しかし、電源ラインを通して全区画は繋がっているので電源ラインを通して妨害波が伝わる恐れがある。電源ラインの特性で伝わる妨害波の周波数帯や減衰量は変わるが、軸発電機を使用している際のノイズ対策なども含めてこれからの問題であろう。

全体として、IEC60945対応の搭載機器であれば問題無いと考えられた。今後は複合影響と電装の問題をともに対処していくことが大切であろう。

 

 

 

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