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火山災害の軽減と災害予測図

噴火がいつどこで発生し、それによってどんな災害の恐れがあるかが事前に把握できれば、適切な防災対応によって被災を大幅に減らすことができる。噴火予知のために、日本では1974年に火山噴火予知計画が始まり、以後観測設備などが重点的に整備された。火山噴火予知連絡会も同じ1974年に創設された。

噴火予知と並んで重要なのは、噴火がどこでどんな災害を起こすか、可能性をあらかじめ検討しておくことである。検討結果は「災害予測図(ハザード・マップ、正確には火山災害予測図)」とよばれる地図にまとめられる。災害予測図を作成する基礎になるのは、過去の噴火記録と噴出物の分布である。溶岩流や火砕流がどう流れるか、噴石や爆風がどちらに向かうかなどは、火山の地形で決まる部分が大きい。そこで、過去の噴火の実態を地形と対比させて解釈することで、防災に役立つ災害予測図が作成できる。日本では現在14火山について災害予測図が公表されている(表3)。

しかし、同じ火山で起こる噴火も、場合によって規模や様式が異なる。山腹噴火が想定される場合には、災害の発生場所は噴出点に大きく依存する。このような多様な可能性を一枚の地図に盛り込むのは難しい。コンピューターに複雑な情報を入れておいて、必要な部分を臨機応変に取り出せるようにするのが、災害予測図の将来の姿であろう。

 

有珠山の噴火

北海道の有珠山が2000年3月に噴火を始めた。これより前に、有珠山は1663年に始まる7回の噴火記録を歴史に残している。内5回は山頂から高い噴煙を上げ、大小の火砕流を出した。特に、1822年の噴火では火砕流が全方位に出て、内浦湾に隣接する当時の虻田集落が全滅した。前回1977〜78年の噴火も山頂で起きた。2回の山麓噴火は20世紀に発生し、水蒸気爆発の後に、1910年には明治新山を、1943〜45年には昭和新山を生み出した。7回の噴火の全てについて、直前に火山性地震の多発が見られた。

今回も、有感地震を含む多数の火山性地震が、3月27日から北西山麓の地下で発生し出した。この前兆現象に基づいて、火山噴火予知連絡会は、今後噴火が発生する可能性が高いとする見解を3月28、29日に発表し、気象庁は緊急火山情報を出して警戒を呼びかけた。それを受けて、周辺地域の住民1万人余りに対して、関係3市町から避難指示が出された。避難の対象地域を決める基礎になったのは、1995年に作られた災害予測図である。

噴火は3月31日に先ず北西山麓の西山で、翌日にはそこから北東に1km離れた金毘羅山で始まり、高さ約3000mの噴煙を上げた(図3)。噴出物には、新しいマグマの破砕物と、古い岩石の破片が半々に混ざっていた。ふたつの場所にはその後多数の小火口ができて、熱水や水蒸気が出続け、泥混じりの噴煙のジェットが間欠的に吹き上げた。火口周辺には顕著な地面の隆起が見られた。

その後も熱水や水蒸気の噴出は続いたが、噴火活動は次第に落ち着き、地面の隆起も鈍化した。このような状況を見て、火山噴火予知連絡会は、噴火が北西山腹に限定されるという見解を4月12日に発表した。また、5月22日には、噴火活動が低下気味であることを示唆した。更に7月10日には、マグマの供給は止まっており、噴火は終息に向かっているという見解を出した。これらの見解を受けて、避難の対象地域は段階的に縮小された。噴火の発生や推移が事前に予測され、それに基づいて避難の指示や解除がなされたのは、日本では初めてである。

 

 

 

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