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建築限界測定車(函館桟橋)。頭にかんざしをさしているような形から「おいらん」車とも呼ばれた

 

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型板による建築限界の検査(日立造船桜島工場)

 

レールの枕木は必要なの?

線路の「レール」は左右の間隔の他に、前後の高低差や水平なども厳しく規制されています。これを調整するのが「枕木」です。羊蹄(ようてい)丸IIの枕木は独特のもので、幅16センチ、長さ9センチ。高さは1センチから約10cmの鋼板製で、低いものは単に鋼板の切り抜きですが、高いものは組立式です。

枕木は、床上の各横梁の位置に電気溶接でつけていきますが、この床は船の中心線でやや盛り上がった格好になっているので、レールの上を水平にするには、左側のレールと右側のレールの枕木の高さを変えなければなりません。そのうえ、床にはどうしても多少のデコボコが残っています。これらの誤差を枕木のひとつひとつで調整していくのです。その数1240個。大変な手間です。

 

線路の建築限界って?

線路上の断面には、目には見えませんが、実際の鉄道車両よりひと回り大きい「建築限界」という範囲が存在します。車両の通り道には、建築物をはじめとしていっさいのものが入ってはならない、という一定の限界を設けています。これが建築限界です。列車が高速で走っているとき、乗客が顔や手を出しても危険がないように、また車両の横ゆれやレールの狂いなどを考えられたものです。鉄道連絡船は積み込み速度が遅いうえに、狭い面積にできるだけたくさん積みたいため、陸上より多少縮小したものを使っていますが、やはり建築限界が存在します。

車両スペースは一見広々としていますが、ほとんどがこの目に見えない建築限界に占められているのです。上部にあり客室などを支える柱をはじめ、電線も配管もいっさいの装備品が、隣り合った建築限界にはさまれた狭い空間に、やっとの思いで、ぎりぎりに納まっています。早く枕木をつけ、この上にレールを溶接しないと建築限界が決まらず、これが決まらないと、スペース内の他の工事が安心してできないのです。

建造中は原寸の型板を作って、関係者全員の立ち会いの中で検査をしますが、これに合格しても安心はできません。羊蹄丸IIの基地港である函館には、日本に1台しかないという「建築限界測定車」が本検査のため、待ち構えているのですから。

 

諸装置の性能テストが一せいに始まるころになると、建造工事もいよいよ最終段階に入ります。そしてクライマックスの海上公試運転を終え、残った工事のすべてを片づけ、船内すみずみまで清掃して、『引渡式』を迎えます。

昭和40年(1965)7月20日。雨雲から再び顔を出した夏の太陽のもと、船上で『引渡式』が行われ、羊蹄丸IIは日立造船から注文主である国鉄に引き渡されました。契約以来1年2カ月余。いろいろと戸惑うこともありましたが、初めて手がけた青函連絡船とも思えないほどのでき栄えでした。

羊蹄丸IIは、国鉄から派遣された乗組員による船主運転を行った後、工事にたずさわった大勢の従業員に見送られて桜島工場の岸壁を離れ、一路函館に向かって出港していきました。高らかに汽笛を鳴らしながら。

(文:古川達郎)

 

 

 

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