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4] 屋敷林についての伝承

屋敷林は、母屋の北側を中心にひとかたまりの樹林地を形成していることが多い。このような場所は「ウラヤマ」あるいは「セドヤマ」等とよばれる(所沢市教育委員会『所沢の文化財と風土』、1977)。

また、屋敷内に植えるべき樹あるは植えてはいけない樹についての伝承も各地にあり、たとえば前者にはモチノキ、モッコク、ヒイラギ、ナンテン等が、後者にはビワ、ツバキ、クリ、ヤナギ、ザクロ、タラノキ等が具体的な事例として記録されている(所沢市教育委員会、前出および『東村山市史』、1971)。

(2)草屋根

1] 茅の民俗

かつての農家は入母屋や寄棟の草屋根がほとんどであり、材料は茅が主体であった。ただし、茅を十分に確保できない地域では小麦のカラが多く利用された。

茅は一般にススキのことをさす場合が多いが、地域によってはそれ以外にもオギ、ヨシ、チガヤ等の総称として使われる場合がある。所沢辺りでは2種類の茅を呼び分けており、山林に自生するススキをヤマガヤ、野原や低湿地にあるオギあるいはヨシ等をノガヤと称していたようである。さらにヤマガヤは「7月に穂がでる早生と十三夜の月見にかざる細葉の奥手」に分類され、「一般に半日陰の方が茎も細く柔らかで良質のものがとれる。」としている(所沢市教育委員会、前出)

茅刈りは初冬が良いといわれるが、丘陵周辺の多くの農家では萌芽更新のために伐採したヤマ(雑木林)に生育するススキを農閑期に選択的に刈り取って保存しておき、これに購入した茅を補うなどして屋根の修繕を行っていたことが聞きとり調査で明らかになっている。しかし、この場合でも茅だけで材料を賄うことは難しく、麦カラを大量に使わざるを得ないというのが実状であった。

ところで、茅の代表種であるススキは、草屋根以外にも里山の暮らしのなかでさまざまな利用が図られてきた。たとえば、さつま芋の苗を栽培する苗床において降雹や遅霜に対処するためススキを編んで作ったカヤス(ヨシズ状のもの)をかぶせたり、十五夜や十三夜にはススキの穂を供える慣習が全国的にみられる。ここで注目されるのは、供えたススキのとり扱いをめぐって現在も古い慣習が丘陵周辺地域に伝承されていることである。

表I-2-2は、これら5市1町の聞きとり調査で得られた内容をまとめたものであるが、ほぼ全域で供えたススキを自分の屋敷の門の入り口や垣根にさしておくという行為がみられる。

他の地域では、畑にさしておくこともあるが、丘陵周辺ではそのような事例はほとんどみられない。一説によればススキには魔除けの力あるいは呪力があるとされている。とすれば屋敷の入口や垣根にさすことによって、さまざまな災いが侵入するのを防いでくれるものと信じられていたからであろう。また、当年の収穫に感謝し、来る年の豊作を祈願する目的が十五夜行事の根底にあることを考えれば、畑にススキを立てようとする行為は、そのような人びとの素朴な気持ちの表れとみることができる。

 

 

 

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