序 調査研究の概要
1. 調査研究の目的と背景
農村地域は農業の低迷や就業の場の少なさから長期にわたって人口が減少し、地域活力の低迷に直面してきた。しかし、近年のレクリエーションニーズの多様化や、地球規模の環境問題に対する意識の高まりを背景に、農村地域のもつ豊かな自然、伝統文化環境教育等の多面的機能が再評価される中で、伝統的な農業施設や美しい農村景観等の地域資源の活用による観光・交流を核とした地域活性化の可能性が注目されている。このような傾向は特に大都市圏周辺の農村地域を中心に顕著であり、日本のふるさととしての原風景をアピールするかたちで、レクリエーション需要に対応する地域整備を進めることによって地域の活力を高めていくことが可能と考えられる。
本調査研究の対象地である福岡県朝倉町は、夏の風物詩として全国的に有名となった200年以上の歴史を誇る水車群があり、6月中旬から10月初旬まで農耕灌漑施設として今も水田を潤しているとともに、朝倉町の田園風景に無くてはならないシンボルとなっている。長きにわたって米を主食とし稲作を基幹産業としてきた日本人にとって、水車を中心とした水田地帯の農村景観は、いわば原風景ともいえる景色である。産業構造の変化に伴い著しく減少しているこうした景観を後世に受け継ぐと同時に、県都福岡市まで約1時間という利便性を活かし、農村景観を活用した交流人口の拡大を促すことにより、地域の活性化を図ることが望まれている。
本調査研究では、第三次朝倉町総合計画基本構想として位置づけられている全町公園化構想の実現に向けて、水車群をはじめ、町内各所に点在する良好な農村風景や歴史的遺産の再評価を基に、水車その他の農業施設・設備、歴史的遺産の保全策を探った。加えて福岡都市圏における都市住民のレクリエーションニーズを踏まえ、朝倉町の農村景観を保全・活用する施策メニューを検討した。
2. 調査研究の視点
○農業生産機能の維持、快適な住民生活の確保を前提に、レクリエーション資源としての活用を視野に入れた農村空間の整備を目指す
○農村景観や歴史的遺産を広い視点から再評価し、朝倉町の持つ景観資源の素晴らしさを再認識する
○住民意識及び広域観光市場もふまえた景観保全・活用を考慮する
○農村景観の保全・活用には、官民協働、町民参加のしくみを検討する