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本件に関してはECも日本政府同様の懸念を有していたところ、1997年6月にECが、また翌7月には日本が、米国に対して協議要請を行い(11)、同年中に3回の協議を経た。しかし、実質的な事態の進展が見られなかったとして、1998年9月に日本とECとが共同して、小委員会の設置の要請を行い、同年10月に小委員会の設置が決定された(12)

EC及び日本は、同州制裁法が政府調達協定の定める内国民待遇及び無差別待遇(第3条1項)、供給者の資格審査(第8条)及び落札基準(第13条4項)に抵触する旨を主張した。なお後述1998年11月の米国連邦地方裁判所の同州制裁法違憲判決の後に、EC及び日本は同判決によりWTO提訴の目的を達成したとして、WTO小委員会手続の停止を要請し、1999年2月小委員会はこの要請を受け入れて検討を停止した(13)

 

4 米国国内における提訴

以上のWTO紛争解決手続とは別に、米国国内でも国内法に基づく訴訟手続が開始された。同州制裁法に基づく「制限的調達リスト」に掲載された企業30社を含む在米企業は、「全国外国貿易委員会(National Foreign Trade-Council:NFTC)」という団体を結成して、同州制裁法の合衆国憲法違憲性を主張して、1998年4月にマサチューセッツ連邦地方裁判所に提訴を行った。同連邦地方裁判所はこのNFTC側の主張を受け入れ、同年11月4日に本件州制裁法に対して連邦憲法違反の判決を下し、本件州制裁法を無効と判断した(14)。敗訴したマサチューセッツ州側は、本判決に対して控訴を行うとともに、同判決に基づく同州制裁法の無効の取消を求めていたが、1999年6月22日に第一巡回区連邦控訴裁判所は、原審の連邦地方裁判所の判決を支持する旨の判決を下した(15)。これに対して州側は上告を行っていたが、2000年6月19日に連邦最高裁判所は、同州制裁法を違憲とする判断を下した(16)

同州制裁法が連邦憲法に抵触して違憲無効であるとの結論は上記三判決で共通であったが、その違憲の根拠とするところは各裁判所の判決によって異なっていた(17)。まず連邦地方裁判所は、連邦政府が専権的保有する外交権限への侵犯を根拠にして同州制裁法の違憲を結論した。

これに対して連邦控訴裁判所は、違憲の結論は同様であったがその根拠を拡大した。地方裁判所判決にみられるように、連邦政府の専権に属する外交権限への侵犯を違憲の根拠としたのに加えて、地方裁判所判決では判断の必要がないとされた対外通商条項違反及び専占違反の主張についても判断を行い、同州制裁法を以下の3つのいずれの論拠においても連邦憲法違反であると断じた。まず第一に地裁判決に見られるように、州制裁法は外交権限に抵触しており、同権限を連邦政府に専権的に授与している連邦憲法に抵触すると判断した。第二に、州制裁法は連邦憲法が連邦政府に専属的に付与している対外通商政策の決定権を侵害しており、対外通商条項違反で違憲であると判断した。最後に、同州制裁法は連邦法により専占されている事項につき規定する点で違憲であると判示した。連邦憲法6章2条は、連邦法違反の州法を無効とする「最高法規条項」を規定している。連邦の法律に州法と明示的に抵触する規定がない場合でも、ある分野について連邦法が制定されたことが当該分野の法規制は、すべて連邦法で行う趣旨であると解される場合には、当該分野は連邦法が専占(preempt)したとされ、その分野の州法は上記条項により無効とされる。前述のように州法制定後に連邦制裁法が制定され、当該分野は連邦法によって専占されて、その結果、同一問題を扱う州制裁法は違憲であり無効とされる。この根拠は後の最高裁判決でも採用された根拠でもあった。

最後に、最高裁判所は控訴裁判所が取り上げた3つの根拠のうちで、最後の専占、特に連邦法規に明示的に州法と矛盾する規定がない場合でも、連邦法の制定が当該分野を連邦法で規制する趣旨であると解される場合には、当該分野における州法の規定は無効とされるという、いわゆる「黙示の専占」のみを州制裁法の違憲の根拠とした。同裁判所はまず、「連邦議会が当該分野を専権的に占有する意図が存在したか、または州法と連邦法の間に矛盾が存在するか」という「黙示の専占」に関する判断枠組を提出した。ついで同裁判所は、この枠組の本件州制裁法ケースヘの当てはめを行った。その結果、マサチューセッツ州制裁法は以下の3点で連邦法に矛盾し、連邦議会の意図に反すると判示した。第1に、連邦法により大統領に対ビルマ経済制裁に関する裁量を授与している点、第2に、連邦法は制裁対象を米国国民及び新規投資に限定している点、第3に、ビルマに対する包括的多角的戦略を外交的に形成することを大統領に命じている点においてマサチューセッツ州制裁法は没却し、連邦法と矛盾すると判示したのであった。

連邦議会は、大統領に対ビルマ制裁発動に関する権限を授与したが、状況の変化に対応して国益に合致する場合には、制裁を停止しうる柔軟性をも付与した。連邦議会は大統領に対して、国益の観点よりビルマに対して経済的な手段を行使できるような権限を付与した。

 

 

 

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