1613年秋、仙台藩主であった伊達政宗の命によって
支倉六右衛門常長はヨーロッパをめざし出帆
1620年に切支丹禁制下の故国に帰還する−
遣欧使節正使であった宣教師ルイス・ソテロの野心に翻弄される
副使支倉常長とその時代を描くオペラ「遠い帆」は
常長の時代からおよそ370年後の1990年に制作が始まり
現代日本を代表する二人の芸術家
作曲家・三善晃、詩人・高橋睦郎による初のオペラ作品として
1999年春、初演されました
仙台藩の一人物だった「支倉常長」の謎に満ちた生涯は
脚本「遠い帆」の上梓によって日本語による一編の「詩」となり
楽譜の完成によって音楽としての命が吹き込まれました
初演によって全貌をあらわした舞台作品としての「遠い帆」は
日本語でオペラを創ることへの真摯な問いかけと
「運命」という、時空を超越した主題を軸に据えた
現代性、普遍性を併せ持つ日本のオペラとして評価され
このたび、仙台、東京での再演が実現することになりました
一層大きなホールでの上演である2000年公演では
さらに準備を重ねた出演者、スタッフの努力によって
より大きな表現の幅と深みが達成されることでしょう
どうぞ最後まで、ごゆっくり、ご鑑賞いただければ幸いです
仙台開府四百年記念事業、オペラ支倉常長「遠い帆」2000年公演にあたり、ごあいさつ申し上げます。
このオペラの制作のきっかけは、日本近代音楽の先駆者山田耕筰氏が友人の哲学者阿部次郎氏に宛てた支倉常長を主人公としたオペラの構想が書かれた手紙が10年前に仙台で見つかったことでした。
この手紙の発見を機に、支倉常長を題材としたオペラを新しい観点から制作したい、世界に通じるオペラにより支倉を再び世界へ飛び立たせたい、との機運が生まれ、晩年の山田耕筰氏をご存じの仙台フィル音楽監督・外山雄三氏を座長とする検討委員会が発足し、構想が具体化されることになりました。
こうして、作曲に三善晃氏、脚本に高橋睦郎氏、演出に佐藤信氏、音楽監督に外山雄三氏、総監督に観世榮夫氏を迎え、足かけ10年の制作期間を経て、昨年春仙台と東京での初演に至った次第です。
昨年の初演は、仙台と東京で併せて7公演を行い、国内一線級のソリストに加え、市民公募による「遠い帆」合唱団、仙台少年少女合唱隊、そして仙台フィルハーモニー管弦楽団の皆さんの総力が見事なアンサンブルとなって一つの作品となりました。ご覧いただいた方々から大きな賛辞と評価をいただき、各方面から大きな反響を呼びました。それは、音楽や演技の質の高さはもとより、今から387年前、大きな不安と苦難な任務を背負って遠い異国へ船出した支倉常長の苦悩する姿が、21世紀という不透明な時代を迎えようとしている現代の私たちに大きな示唆を与えてくれたからではないかと思っております。
今回は、より大きな舞台での公演となりますので、さらに多くの皆様と共に仙台から生まれたこの作品への共感の輪を広げていくことができるならば、この上ない喜びでございます。
最後になりましたが、オペラ支倉常長「遠い帆」の制作・上演にご協力いただいた皆様方に心からの感謝を申し上げます。