日本財団 図書館


オリヴァー・ナッセン「武満徹作曲賞」を語る

ききて:猿谷紀郎

2000年11月29日ヒルトン東京にて

 

獲谷◎「武満徹作曲賞」は世界でも類を見ない特別な作曲賞だと思いますが、実際に審査されて、この賞の特徴についてどのように感じられていますか。

ナッセン◎第一に、ファイナリストの作品が、すべて充分なリハーサルを経て演奏されるシステムになっているということ。単に譜読みのセッションではないわけで、それだけでも特別だと言えるでしょう。若い作曲家にとっては、リハーサルしてもらえるだけでもありがたいのに、さらに賞金をいただけるかもしれないという、すばらしい機会になると思います。

第二に、審査員が一人だということ。作品の審査というのは、ある種、選ぶ人の情熱、入れ込みで行われる部分があるものだと思うし、複数の人間による審査は、妥協によるつまらない結果になりがちですよね。たしかに一人の審査の方が難しい部分もあり、責任は重いけれど、自分が深く関わっているという実感を持つことができるのがいいと思います。

僕の選択の基準はとても素朴で、まず「自分が聴きたいと思う作品かどうか」です。今回も聴衆の一人として惹かれるものを選びました。「イマジネーションやアイディアが魅力的であること」も重要です。これらの条件を満たした上で、演奏者のことを配慮しているかどうかも大切なポイントですね。

実は、ファイナリストに選んだ5作品のほかに、あと6つほど気になった作品があって、譜面審査最終日の午後、もう一度見直して、ようやく決断しました。自分の選択に少しも妥協はなかったと、自信を持って言うことができます。

猿谷◎応募作品全体に、なにか傾向を感じましたか。

ナッセン◎全体的には、とてもピュアという印象です。様式の変化に乏しい、色彩も少ない作品があったのは残念ですが。困ったのは、大言壮語的な作品が目立ったこと。ポスト・ショスタコーヴィッチ風だったり、ポスト・ヒンデミット風だったり…。実のところ私はこういうのは苦手なんです。

猿谷◎この作曲賞も5年目を迎えました。ヨーロッパやアメリカの雑誌にも広告を出していますが、海外での評判はどうなのでしょうか。

ナッセン◎ええ、よく知られていますよ。デュティユーやベリオが審査員だったということもあって、若い作曲家はちょっと恐れているようですが(笑)。審査の方法も公正だし、運営もすばらしいと思います。

猿谷◎今回のコンポージアムに期待することは?

ナッセン◎やはり他人の作品を指揮するほうが楽しいですから、「オーケストラ・ファンタジー」では、武満の《グリーン》、それにブリテンの作品を演奏できるのが嬉しいです。この2作品は、イギリスでもよく演奏しています。

でも一番楽しみなのは、作曲賞のファイナリストの作品を聴くことですね。

 

本選会で作品が審査される5名のファイナリストは、昨年11月のナッセンによる譜面審査で選ばれました。今回の作曲賞について、ナッセンにお話しいただきました。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION