ただいま紹介いただいた字多です。皆さん、こういうふうにエアコンの効いた部屋に座って海のことを議論していますが、本当の海のことを知ろうと思えば、長靴をはいて海岸へ行くべきです。いま、現に起きていることをつぶさに見て、しかして後に議論をしたほうがいいと思うからです。具体的なお話をしましょう。
私、毎週土日にほとんどどこかへ行っていまして、どこかってもちろん海の周りです。私は海岸の仕事をしていますから、先ほど上嶋さんとかボルゲーゼ先生のお話のような広いoceanの話の、一番岸側の、陸との境界の話だけにきょうは限定させていただきます。それ以外に興味がないのではなくて、興味深々なんですが、あまりに話題が多すぎてしまうので、きょうは陸岸に沿ったところをお話しします。
最初に、まずはリアリティの状況を見てもらわないと話にならないということで、二つの例をお話しします。これから内湾域と外湾域、外海に面したところの二つの例を挙げますが、それは特異中の特異な例ではなくて、非常にどこにでもある例を持ってきています。そこのところをよく考えてほしいのです。というのは、もしそれが特異な例だとしたら、私が言っている論理は、「あれは非常に特異な例であるからまだ心配ないぞ」となるはずなんですが、現実は、もはやそういう段階を過ぎています。今もどんどん沿岸域の環境と生態系が急速に悪化しています。それは現地に行けば行くほどそういう感を深めたものですから、ちょっと見ていただきたいというのがまず一点。
それから次。最初にご覧いれるのは、ちょっと土地勘がないと解りにくいと思いますが、九州の国東半島に小さな守江湾という湾があります(写真-1)。本日出席されている清野先生と一緒にここの辺りを調べてみてまわったんですが、誰も悪意を持ってこの環境を壊そうとする人間は誰もいなかったんです。非常に丁寧に、日本人らしく几帳面に、着実にある目的を達成するために、みんな分担して工事をやってきたんです。たとえば、写真-2は、1966年、今から34年前の守江湾の湾域の干潟を表しています。たとえば干潟が全部消えてしまった千葉沖なんかですと、今日出席の方で住まわれている人がいるかもしれませんが、全部マンションになっていますので、こういう姿を思い浮かべることは不可能ですよね。でもここはまだ、今日行っても残っています。残ってるんですが、その環境というのは非常に変わってしまっているわけです。