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新世紀へ向けて海を考える

 

笹川陽平

 

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本日は、私ども人類にとって大変重要な海を取り上げて研究セミナーを開催しましたところ、お忙しい中、学者、研究者さらには行政・メディア関係などから海に深い関心を持つ方々に多数ご参加頂きまして誠に有り難うございます。

日本財団は、非営利の助成財団として創立以来様々な公益活動を支援してきましたが、海洋船舶関係事業の支援は当財団の活動を特色付けるものとして、時代を先取りし、国際的視野でその時々のニーズに積極的に対応してきました。超高速貨物船テクノスーパーライナーやメガフロートなどの先端技術の研究開発、日本の生命線マラッカ、シンガポール海峡の航行安全の確保、北極海航路の開発、近年大きな問題となっている海賊問題への対応などはその一例です。

さて、私たちは、今21世紀の入り口に立っていますが、20世紀後半は、人類と海との関係が大きく転換した大変注目すべき時期であると思います。

先ず、科学・技術の大きな進歩がありました。大砲の砲弾の届く距離ということで3海里と決められた領海の幅や、開発可能ということで水深200メートルまでと決められた大陸棚の定義は、あっという間に科学技術の進歩によって時代遅れなものになってしまいました。今や、人類は、もっと深い海底の海底油田を掘削し、1万メートルを越える海洋の最深部まで到達し、さらに深海底の地殻の内側にまで調査の手を延ばそうとしています。

他方、20世紀後半になると世界各地で海洋の汚染、資源の枯渇、環境の破壊が顕在化してきました。海洋汚染の80%が陸域起因であると指摘されているように、これらは、人類の経済活動の発展の結果であり、また、人類が海の無限の包容力を盲信して無秩序な海洋の開発、利用を進めてきた結果であります。海洋の包容力は、私たちが考えていたほど大きくはなく、人類は知らないうちに自分たちの足元の生存基盤を掘り崩していたのです。生態系へのマイナスの影響は、先ず、河川湖沼、閉鎖性海域、沿岸域、両極圏などに現れ、広大な海洋においても静かに進行しています。手後れになる前に適切に対応する必要があります。

このような状況を踏まえて、人類は、20世紀後半になってその歴史上初めて、地球上の7割を占める広大な海洋を本気で「管理」しようと考え始めたのです。

ほぼ半世紀にわたる長い年月と、国々の利害と、多くの人々の英知が注ぎ込まれた国連海洋法条約が1994年ついに発効しました。

 

 

 

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