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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年11月19日11時10分 茨城県常陸那珂港 2 船舶の要目 船種船名
監督測量船ひたち 総トン数 29トン 全長 18.00メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 回転数 毎分2,000 3 事実の経過 ひたちは、平成7年3月に進水し、茨城県常陸那珂港の建設工事に伴う測量作業、監督者の送迎等に従事するFRP製の監督測量船で、船首側から順に船首倉庫、客室、機関室及び船尾倉庫を配置する1層甲板型で、客室とその上の操舵室を一体ハウスとして囲い、主機としてディーゼル機関を2基装備していた。 機関室は、両舷に主機を、中央部に交流電源用補機をそれぞれ配置し、後部壁に配電盤と主機警報盤を取り付け、出入口として後部甲板上の右舷側にハッチを設けていた。 主機は、セルモータ始動式で、運転中はベルト駆動の充電発電機がレギュレータを通して始動用バッテリーを充電し、主機警報盤上で操作位置を切り替えると操舵室で発停操作ができるようになっていた。 船尾倉庫は、後部床に操舵機が配置され、主機排気管が機関室から前部壁を貫通して両舷の壁沿いに取り付けられた消音器を経て船尾トランサム船外排出孔に向かって下降し、両舷の消音器の下の床面に始動用バッテリーが1組ずつ置かれており、換気口として後部甲板に固定されたベンチ下の床に通じる直径150ミリメートルのマッシュルーム型通風筒を取り付け、前示機関室出入口と隣接したハッチを出入口としており、点検時を除いて同ハッチは通常閉鎖されていた。 始動用バッテリーは、電圧12ボルト20時間率容量200アンペア時の自動車用鉛蓄電池を2個直列にして1組とし、右舷側が1号バッテリー、左舷側が2号バッテリーとして格納箱に納められ、バッテリー端子には銅製の接続用金具を取り付けて六角ボルトで締め付け、同金具にケーブル端子が蝶ナットで接続され、1号が右舷主機及び補機の、また2号が左舷主機のセルモータに給電するほか、直流24ボルト系統の航海灯、通信装置、主機警報盤等に給電するようになっていた。また、主機運転中の充電発電機から充電されるほかに交流電源を用いる別置きの充電器から適宜充電することができるようになっていた。 バッテリーの格納箱は、蓋付きで、1号、2号とも各2個の鉛蓄電池を船首尾方向に並べて納め、充電回路及び放電回路の単芯ケーブルか通る電線貫通金物を有して内外部を隔離する一方、プラスチック製エルボが通気口として船首側に取り付けられ、蓋に取り付けたビニールホースが船体外板に貫通した排気口に接続され、高速走行中、排気口に生じる負圧で箱内部が換気されるようになっていた。 A受審人は、R株式会社の派遣要員となり、平成9年10月7日にひたちの機関長として乗船したが、同社のひたちの運航委託契約には乗組員による入渠中の整備と監督が含まれていなかったので、翌8日にひたちを造船所に回航してその後工事が行われる間、ひたちを離れ、他船の運航に携わった。 ひたちは、同月8日船体の改造と機関等の定期整備のために千葉県銚子市の造船所に入渠し、修理工事仕様書に従って1号及び2号バッテリーの充電と電解液の比重確認が行われることになり、船内に搬入された充電器のコードが配電盤に接続され、バッテリー端子でのケーブル接続が外されないままで均等充電された。 ところで、バッテリーは、1号、2号とも平成7年の建造以来使用されており、ケーブル端子接続用金具に緩みはなかったが、同接続用金具全体に電解液による腐食が進行していたので、バッテリー端子と接続用金具の締付部に酸化膜による接触不良が生じ、主機始動のような大電流が流れるときに同部の接触面に火花を生じるおそれがあった。 A受審人は、11月4日ひたちの整備が済んだ状態で再び機関長として戻り、常陸那珂港の作業基地と沖合の工事現場との往復運航を開始したが、前示契約のため入渠中の整備内容を詳細に知らされず、また乗船時に前任者からの引継ぎでバッテリーの格納状況を知っていたものの、同格納箱の蓋を開いてケーブル端子接続部の状況を点検しなかった。 ひたちは、同月19日08時05分常陸那珂港の第1船だまりの作業基地で主機及び補機を始動して発航に備えているうち、作業現場からの呼出しを受け、監督者を迎えるため沖合の東防波堤に向かったところ、連絡違いと分かっていったん作業基地に戻り、10時10分主機を停止したが、補機始動後に始めた充電が続けられ、始動用バッテリーの端子電圧が次第に上昇した。 こうして、ひたちは、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.8メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、同日10時45分再び主機を始動して同基地を発し、11時ごろ東防波堤ケーソン仮置場付近に到着して主機を停止し、作業監督者の連絡を待ちながら漂泊しているうち、始動用バッテリーの端子電圧が充電終期電圧に近づくに伴って水素ガスが連続発生し、バッテリー格納箱の通気口エルボから船尾倉庫内にも拡散する状態となり、船体が流されて防波堤に近づいたので安全な距離に離すため、船長が操舵室でキー操作をして左舷機を始動したところ、腐食で接触不良となっていた2号バッテリーの船尾側電池のマイナス端子とケーブル端子接続用金具の接触面に始動電流の火花を生じ、11時10分磯埼灯台から真方位012度2.1海里の地点において、格納箱とその付近に滞留していた水素ガスに着火して爆発し、船尾倉庫天井の後部甲板が浮き上がり、同倉庫入口ハッチとベンチが吹き飛んだ。 当時、天候は晴で風力1の東北東風が吹き、海上は隠やかであった。 A受審人は、船尾倉庫に入って室内材がくすぶっていた残り火をもみ消し、2号バッテリーの格納箱の蓋がなくなって船首側及び船尾側電池とも本体カバーが割れて飛散しているのを認め、ひたちは、近くにいた僚船に依頼して常陸那珂港にえい航され、のち破損した機関室と船尾倉庫との隔壁、後部甲板、主機警報盤、配電盤、配線、主機冷却水タンクなどが取替え修理された。
(原因) 本件爆発は、主機始動用バッテリーのケーブル端子接続部の点検が不十分で、常陸那珂港内で漂泊して待機中、主機を始動した際、腐食して接触不良となっていたケーブル端子接続用金具と始動用バッテリー端子との接触面に始動電流の火花を生じ、充電によりバッテリー格納箱に滞留した水素ガスに着火したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人が機関の管理に当たって、バッテリーの格納箱を開いてケーブル端子の接続部の点検を行わず、その腐食状況を放置したことは、酸化膜の増加で接触不良を来して大電流時の火花の可能性を残したことになり、本件発生の原因となる。 しかしながら、以上のA受審人の所為は、本件発生当時、同部の締付ボルトは緩んでいなかったこと、接続部全体に電解液による腐食が進行していたこと、入渠中の整備管理については任されておらず、整備が済んだものとして運航を委託されていたことの諸点に徴して、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。 |