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1999年(平成11年)

平成10年横審第83号
    件名
作業船せんとぽうりあ
被支援引船第十五昭和丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成11年11月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、猪俣貞稔、西村敏和
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:せんとぽうりあ船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第十五昭和丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
沈没、左舷船首部外板に凹損、主機全損、航海計器、その他機器類に濡れ損

    原因
操船・操機(押航支援方法の連絡不十分)不適切

    主文
本件転覆は、押航支援に当たるせんとぽうりあが、台船を曳航中の第十五昭和丸に対し、支援方法について十分に連絡をとらずに台船を押したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月18日14時13分
京浜港横浜区
2 船舶の要目
船種船名 作業船せんとぽうりあ 引船第十五昭和丸
総トン数 106トン 19トン
全長 28.00メートル 15.72メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 316キロワット
3 事実の経過
せんとぽうりあ(以下「せ号」という。)は、コルトノズルラダープロペラ2基を備えた、曳航力約10トンの鋼製作業船で、A受審人、機関長及び作業員の計3人が乗り組み、京浜港横浜区の大桟橋ふ頭改修工事を行っている起重機船の支援作業に従事していたところ、同船の作業責任者の指示を受け、ケーソンを積載した台船M−620(以下「台船」という。)を同工事現場まで曳航している引船第十五昭和丸(以下「昭和丸」という。)の押航支援に当たるため、船首1.6メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成10年4月18日13時50分大桟橋ふ頭北端を発し、大黒大橋付近を航行中の昭和丸に向かった。

昭和丸は、専ら台船等の曳航作業に従事する、曳航力約4トンの鋼製引船で、B受審人が一人で乗り組み、ケーソン2個約1,000トンを積載し、喫水船首尾とも1.0メートルとなった台船を船尾に引き、船首1.5メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、せ号より先、同日13時20分京浜港川崎区池上運河内の日本鋼管岸壁を発し、大桟橋ふ頭工事現場に向かった。
ところで昭和丸が引いている台船は、全長60.00メートル幅20.00メートル深さ3.50メートルで、台船の船首部両端に直径55ミリメートル長さ20メートルのナイロンロープをY字型に取り、その先端に直径55ミリメートル長さ10メートルの同ロープを連結し、昭和丸の船尾ペリカンフックにかけ、同船の船尾から台船の船首まで約21メートルの状態で曳航されていた。
B受審人は、起重機船の作業責任者から14時30分横浜北水堤灯台(以下「水堤灯台」という。)付近に到着の指示を受けて京浜運河を西行し、14時00分大黒大橋を通過し、233度(真方位、以下同じ。)の針路及び5.0ノットの速力で航行していたとき、せ号が自船に近づいてくるのを認め、同時07分昭和丸が水堤灯台から062度1,200メートルの地点に達したところで、せ号が台船の船尾に頭付けし、作業員が乗り移ってくるのを見たが、工事現場に着くまでは特に台船に対する支援作業を受ける段取りになっていなかったので、そのまま水堤灯台に向けて続航するうち、台船の曳索が弛むとともに、台船の位置が正船尾方から左方にずれているのを認め、せ号が台船を押していることを知り、横引きの状態になるおそれを生じ、連絡手段がなかったことから、操舵室右舷側に出て、両手を交差して押し方を止めるよう合図を送るかたわら、速力を上げて台船を正船尾に位置させるよう態勢の立て直しを図ったものの、せ号の曳航力が強く、ますます台船は船尾左方に進出し、曳索は台船の船首尾方向に対し、屈曲してくの字になるように緊張し、左舷側を横引きされる状態となって危険を感じ、同時12分半汽笛で長音2回を吹鳴して注意を喚起したが、及ばず、14時13分水堤灯台から090度160メートルの地点において、昭和丸は船首がほぼ345度を向き、左舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
一方、せ号のA受審人は、14時07分水堤灯台から059度1,300メートルの地点で、台船の船尾に頭付けして作業員を送り、同船船尾に直径40ミリメートルのナイロンロープ1本を取り、押し方を始めることとしたが、台船を正船尾からまっすぐ押せば問題ないものと思い、自船の曳航力が強すぎると横引きする状態にして同船の適切な曳航作業に支障を来すおそれがあることに気付かず、昭和丸の曳航力を確かめるなど支援方法について十分に連絡をとることなく、6.0ノットの速力で押し方を始めた。

14時11分A受審人は、せ号が水堤灯台から067度500メートルあたりのところに達したとき、自船の船首尾線に対し、台船の船首尾線が右に折れた状況となり、同時12分半それを修正すると今度は左に折れた状況になって曳索が緊張し、昭和丸の汽笛音を聞いたとき、初めて自船の曳航力が強すぎていることに気付き、急いで機関を中立としたが、及ばず、台船が昭和丸を横引きする状態となって曳索が切断するとともに、前示のとおり転覆した。
昭和丸船体は、転覆後、沈没したが、サルベージによって引き揚げられ、この結果、左舷船首部外板に凹損を生じ、主機が全損したほか、航海計器、その他機器類に濡れ損を生じたが、のちいずれも修理され、B受審人は、海中に放り出されたところ、付近航行中の交通船に救助された。


(原因)
本件転覆は、京浜港横浜区において、昭和丸がケーソン2個約1,000トンを積載した台船を大桟橋改修工事現場に向けて曳航中、押航支援に当たったせ号が、支援方法について昭和丸との連絡不十分で、強すぎる曳航力で台船を押したことから、昭和丸を横引きする状態に至らせたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、京浜港横浜区において、ケーソン2個約1,000トンを載せた台船を曳航中の昭和丸の押航支援に当たる場合、自船の曳航力が強すぎると台船が昭和丸を横引きする状態となって同船の適切な曳航作業に支障を来すおそれがあったから、昭和丸の曳航力を確かめるなど支援方法について同船と十分に連絡をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、台船を正船尾からまっすぐ押せば問題ないものと思い、十分に連絡をとらなかった職務上の過失により、強すぎる曳航力で台船を押し、横引きする状態にして転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。






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