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1999年(平成11年)

平成10年広審第112号
    件名
瀬渡船マドンナ転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成11年9月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、釜谷奬一、黒岩貢
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:マドンナ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
釣り客1人が溺死、船体は沈没したが、のち修理

    原因
荒天避難の措置不適切

    主文
本件転覆は、荒天避難の措置をとらなかったことによって発生したものである。
受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月21日18時00分
瀬戸内海伊予灘北東部海域
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船マドンナ
全長 12.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 117キロワット
3 事実の経過
マドンナは、幅2.35メートル、深さ0.88メートルの瀬渡業に従事するFRP製交通船兼作業船で、船首中央部に瀬渡用やり出しを設備してその後部からほぼ船体中央部までを客室とし、同室と接して機関室及び操舵室が配置され、客室前部は船体中央部に幅68センチメートル(以下「センチ」という。)同室床面からの高さ82センチの閉鎖装置の無い開口部が、同室後部は両舷に床面から50センチのところに船橋甲板の左右通路への出入口として幅約40センチの開口部がそれぞれ設けてあり、また、同室内には直径4.5センチの排水口が、床面前後部の舷側に合計4箇所設けられていた。
R釣具店は、マドンナを借り入れ、自己所有の瀬渡船及び遊漁船各2隻と共に計5隻で伊予灘北東部及び松山港周辺の海域において、釣り客の瀬渡業などを営み、A受審人は、平成6年から同店配下の前示各船の船長としてその業務に従事していた。
A受審人は、平成9年12月21日06時ごろから天候平穏な状況の下、松山港外港2号防波堤灯台から001度(真方位、以下同じ。)1,020メートルのところにあるR釣具店桟橋と松山港第2区内の防波堤との間の瀬渡業務に当たっていた。
こうして、A受審人は、同日16時ごろマドンナに1人で乗り組み、瀬渡の目的で、伊予灘北東部の横島へ3人、同二神島へ8人の計11人の釣り客を乗船させ、船首尾とも0.34メートルの喫水をもって、前示桟橋を発し、両島へ向かった。
A受審人は、先ず横島で釣り客を上陸させ、次いで二神島で残りの釣り客を上陸させた後、同日21時の釣り客収容時刻までR釣具店桟橋で待機するつもりで17時ごろ同島を発し、同時05分ごろ同島南側に差し掛かったところ、北東方からの風浪が強まってきたのを認め、過去の経験から今後市島から釣島水道にかけて風浪が激しくなって、釣り客の収容が困難になると考え、今上陸させたばかりの釣り客を収容したほうが良いと思い、直ちに反転して二神島で自船が上陸させた釣り客のほかに他の瀬渡船で上陸していた釣り客3人を乗せ、次に横島でも自船が上陸させた釣り客を収容し、計14人の釣り客をマドンナ客室に乗船させた後、17時43分ごろ同島を発し、松山港に向け帰航の途に就いた。
A受審人は、17時45分小市島灯台から297度1.6海里の地点で、針路を122度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵により進行したとき、前路に大波が立っているのを認め、客室前部開口部から同室内への浸水の危険を若干感じたが、何とか目的地まで行き着けると思い、反転して風下の島陰で一旦避難するなど荒天避難の措置をとることなく続航した。
その後A受審人は、横島南東方の中島を通過する頃から風浪が増勢し、波浪が船内に打ち込み始めたものの、依然、荒天避難の措置をとることなく、17時50分同針路、同速力のまま中島と小市島の中間付近に達したとき、風浪が益々増勢する状況の下、船首少し左1,200メートルばかりの小市島の島陰に避難しようと思い、機関を微速力前進に減速し、2.5ノットの速力で進行中、客室前部開口部から同室内に打ち込んだ海水が、同室内の排水口で捌(さば)ききれず、同室内床上数10センチの高さにまで滞留し、多量の海水と同室に形成された自由表面とにより重心が上昇して復原力を失い、マドンナは、18時00分小市島灯台から280度750メートルの地点で、原針路、原速力のまま左舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風力7の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、波高約3メートルの波浪があった。
転覆の結果、釣り客のBが溺死し、マドンナは、えい航救助作業中、沈没したが、のち引き上げられて修理された。

(原因)
本件転覆は、夜間、伊予灘北東部海域において、釣り客を収容して松山港へ向け帰航中、前路に大波が立っているのを認めた際、荒天避難の措置をとることなく続航し、客室に多量の海水が打ち込んで復原力を失ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、伊予灘北東部海域の横島において、釣り客を収容して松山港へ向け帰航中、北東方からの風浪が強まって、前路に大波が立っているのを認めた場合、反転して風下の島陰で一旦避難するなど荒天避難の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、何とか目的地まで行き着けると思い、荒天避難の措置をとらなかった職務上の過失により、松山港に向け続航し、増勢した波浪の打ち込みを受け、多量の海水が客室に滞留した結果、復原力を失って転覆を招き、釣り客1人を死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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