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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月15日15時36分 津軽海峡東口 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五十八稲荷丸 総トン数 19トン 登録長 18.70メートル 幅
3.81メートル 深さ 1.47メートル 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数
190 3 事実の経過 第五十八稲荷丸(以下「稲荷丸」という。)は、昭和61年に建造された一層甲板型のFRP製延(はえ)縄漁船を改造したいか一本釣り漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、平成9年10月15日の午後、青森県下北郡大畑港において、漁獲物冷蔵用砕氷(以下「砕氷」という。)の積み込みを行うことになった。 稲荷丸の上甲板上は、船首から順に、船首倉庫、前部上甲板、船体中央よりやや後部に船橋及び機関室囲壁、その1メートル後方に居住区、船尾上甲板があり、甲板下は、船首から順に、倉庫、魚倉、機関室、居住区、操舵機室となっており、両舷側にブルワークを設け、その上甲板上からの高さは1番魚倉付近で1.5メートル、船体中央で1.1メートル、居住区付近で1.3メートルで、上甲板との接合部には片舷8個の放水口が設けられていた。 ところで、A受審人は、稲荷丸を中古で買船し、平成7年5月に改造したとき前部上甲板下の9個の魚倉のうち9番魚倉の倉口を水密とし、機関室前部の水密隔壁を取り外して同魚倉を機関室区画とした。そして、2番魚倉後部から5番魚倉前部までの隔壁を取り外して長さ約5メートルの延長魚倉とし、取り外した隔壁下部と倉底との接合部に倉底からの高さ約40センチメートルの仕切り板を船横に設けて荷止め板とし、いか釣り機を両舷側ブルワーク上にそれぞれ7台ずつ設置し、前部マストと船橋前部支柱間及び船橋後部マストと船尾マスト間にそれぞれ集魚灯用レールを設け、前部上甲板上方のオーニングレールにはFRP製の屋根を張ったが、このいか釣り機の全重量は付属機器を合わせると1トン以上になり、上甲板より上方に設けられた漁労設備により建造時より復原力が低下していた。 A受審人は、今回の操業に備えて砕氷約5トンを購入し、そのうち約4トンを延長魚倉内に積み、残り約1トンを発泡スチロール製の魚箱(以下「魚箱」という。)に詰めて甲板積みにすることとしたが、同月15日午前中に入手した気象情報では荒天であるが回復する見込みであるとの予報であったうえ、これまで魚倉内に積み込んだ砕氷が荷崩れしたことがなかったので砕氷が荷崩れすることはあるまいと思い、約4トンの砕氷を延長魚倉内に山積みし、船体の動揺で荷崩れしないよう、荷ならしを行うなどの荷崩れ防止措置を十分に行うことなく、甲板積みの砕氷約1トンを魚箱約250個に約4キログラムずつ分けて入れ、魚箱を上甲板上の延長魚倉の最後部倉口から8番魚倉倉口までの間の中央部に2列、両舷側に1列、それぞれ約6段に積み付け、中央の2列と両舷側1列との各間隙(げき)に、梱包された魚箱の蓋をそれぞれ詰めて移動防止とした。 こうして、A受審人は、延長魚倉後部、6番、7番及び8番魚倉の倉口さぶたは甲板積みの魚箱でおさえたが、1番及び延長魚倉の3倉口のさぶたはかぶせたまま固縛せず、居住区及び機関室囲壁後部の出入口並びに操舵機室のさぶたを閉鎖し、船首0.9メートル船尾2.3メートルの喫水で、13時30分大畑港を発し、同時35分大畑港第1東防波堤先端を左舷側に通過したとき針路を003度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を全速力前進にかけて9.3ノットの対地速力で、自動操舵によって恵山岬北方沖合の漁場に向け進行していたところ、はじめのうちは波がほとんどなく、風も弱かったものの、そのうち次第に右舷後方からの波、風ともに強まってきたので14時30分汐首岬灯台から133度14.0海里の地点で機関の回転数を下げて6.0ノットの対地速力で続航した。 A受審人は、その後も風が強まり、風浪も高まり、この海域独特の潮波も立ちはじめ、ローリングが大きくなってきたので、風浪を正船尾方から受ければ航行しやすくなるものと思い、15時05分汐首岬灯台から121度12.0海里の地点で針路を331度に転じたところ、右舷船尾方から追い波を受けながら折からの東方に向かう3ノットばかりの海流により右方に30度ばかり圧流されるようになり、5.2ノットの対地速力で進行中、同時15分汐首岬灯台から117度11.7海里の地点でひときわ隆起した追い波の打ち込みを受け、大量の海水が上甲板上に滞留して右舷側に大傾斜したとき、上甲板積みの魚箱が右舷に約60センチメートル移動してブルワークに圧着され、延長魚倉内の砕氷が右舷側に荷崩れし、30度ばかり右舷側に傾斜して復原しなくなった。 A受審人は、船首を風上に向けて船体の動揺を軽減しようと思い、手動操舵により右舵をとって徐々に回頭し、針路を126度に向けて波を見ながら機関を適宜半速力前進と停止とに繰り返して使用し、海流により左方に20度ばかり圧流され、4.4ノットの対地速力で船体を支えながら乗組員に甲板上の魚箱の投棄を命じたものの少量しか投棄できずにいるうちに、右舷船首に打ち込んだ海水により1番及び延長魚倉の3倉口のさぶたが浮き上がり、両魚倉内に大量の海水が流入して傾斜が更に増大し、船首が沈下していくので付近の僚船に救助を求め、15時31分乗組員全員が僚船に救助されたが、稲荷丸は、15時36分汐首岬灯台から115度13.2海里の地点において、復原力を喪失して右舷側に転覆した。 当時、天候は小雨で風力5の南東風が吹き、波高は約4メートルで、東方に向かう3ノットの海流があった。 転覆の結果、稲荷丸は、引船によって八戸港港外に引き付けられたのち、クレーン台船で函館港に搬送されたが、主機及び電気機器が濡れ損し、のち廃船処分された。
(原因) 本件転覆は、青森県大畑港において、砕氷を延長魚倉内に積み込むにあたり、砕氷の荷崩れ防止措置が不十分で、同魚倉内に山積みしたまま荷ならしを行わなかったため、津軽海峡東口を恵山岬北方沖合の漁場に向け荒天航行中、斜め後方から上甲板に打ち込んだ海水が滞留して大傾斜した際、甲板積みの砕氷入りの魚箱が右舷側に移動し、同魚倉内の砕氷が荷崩れして船体傾斜を生じ、打ち込み海水が倉口から1番及び延長魚倉内に流入して復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、青森県大畑港において、砕氷を延長魚倉内に積み込む場合、船体の動揺で砕氷が荷崩れすることが予想されたから、同魚倉内に山積みした砕氷を荷ならしするなどの荷崩れ防止措置を講ずべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで砕氷が荷崩れしたことがなかったことから今回も荷崩れすることはあるまいと思い、延長魚倉内に山積みした砕氷を荷ならしするなどの荷崩れ防止措置を講じなかった職務上の過失により、砕氷が荷崩れして転覆を招き、主機及び電気器機に濡れ損を生じさせ、廃船処分させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |