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1999年(平成11年)

平成10年門審第38号
    件名
漁船第三十六敬天丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成11年6月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

西山烝一、宮田義憲、阿部能正
    理事官
今泉豊光

    受審人
A 職名:第三十六敬天丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大破、のち廃船処理

    原因
荒天に対する配慮不十分

    主文
本件転覆は、荒天に対する配慮邸不十分で、発航を取り止めなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月18日13時10分
鹿児島県桜島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十六敬天丸
総トン数 11トン
全長 17.30メートル
幅 3.55メートル
深さ 1.36メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
第三十六敬天(以下「敬天丸」という。)は、平成3年4月に進水した一層甲板型のFRP製漁船で、甲板下が船首から順に物入れ、魚倉、機関室、空所及び操舵機室となっていて、上甲板上の船体中央部からやや後方に操舵室と船員室を有し、同甲板の周囲には中央部で高さ約60センチメートルのブルワークが設けられ、A受審人が、同船を鹿児島県鹿児島郡桜島町赤生原の沖合にある養殖場のいかだの側のブイに係留して、養殖したぶりを魚市場に出荷するなど運搬船として使用していた。
ところで、いかだは、縦8メートル構8メートル深さ8メートルの立方体の形状で、上面と下面は鉄製のパイプにより正方形の枠に組み立てられ、上面を除き側面及び下面の全体が金網によって覆われていて重量が約1トンあり、これを2個繋いで1基として合計9基が、同養殖場のブイに1基ずつ独立して係留され、1個のいかだの中に約5,000匹のぶりが養殖されていた。
A受審人は平成8年7月18日午前中、折からの台風6号の接近に備えて自宅で待機し、10時のテレビニュースを見て、中心気圧955ヘクトパスカルの中型で強い同台風が同日09時00分現在屋久島付近にあって、最大風速が40メートルに達し、時速20キロメートルで鹿児島湾に向け北上しており、鹿児島地方気象台から鹿児島県全域に大雨、洪水、暴風、波浪警報が発表されていることを知った。
A受審人は、10時30分ごろ所属している西桜島漁業協同組合から、同人の管理しているいかだ1基(以下「いかだ」という。)が養殖場から流出したとの連絡を受け、いかだの喪失による損害及び船舶等への接触事故を懸念して、いかだを捜索して回収することとし、関係者に連絡を取って養殖場に赴いたものの、回収にあたり、いかだの重量が大きく、敬天丸での平常時における曳航能力が2ノットであったことから、いかだを発見したあと、曳航するにはなお一層の困難が予想され、船体等が危険な状態に陥るおそれがあった。
A受審人は、そのころ既に捜索海域が台風の暴風雨圏内に入っていて、驟雨(しゅうう)をともなう北寄りの風が毎秒20メートルに達しており、風雨ともに増勢する状況にあることを認めたが、荒天に対する配慮を十分に行わず、北寄りの風で波浪が高くならないので、いかだを曳航しても何とか安全に航行できるものと思い、発航を取り止めることなく、敬天丸に同受審人ほか同人の弟2人が乗り組み、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、12時00分鹿児島港本港化防波堤灯台から075度(真方位、以下同じ。)2.2海里にあたる桜島町赤生原の係留地を発し、いかだを捜索するため桜島西方沖合に向かった。
A受審人は、発航とともに機関を8.0ノットの半速力前進にかけ、風勢が強まる中、左右に10度ばかり横揺れしながら桜島西岸に沿って南下し、12時15分神瀬灯台の北方1海里の地点で流出したいかだを発見して、いかだに直径42ミリメートル、長さ200メートルの化学繍維製の曳航索を取り付け、養殖場に向け曳航を開始したところ、風波が強くて北上することができず、桜島町赤水にある友人の養殖場に一旦仮置きすることにし、同時30分神瀬灯台から347度1.0海里の地点において、針路を128度に定め、機関を半速力前進にかけ、1.3ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
そのころ激しい雨と北東風がより一層増勢して、風速が毎秒25ないし30メートルに達し、波高は、陸地からの風で沿岸近くのため、50センチメートルであったものの、南寄りのうねりが1メートルあって波浪が立ち上がる状態となっていた。
A受審人は、針路を安定させるのに適宜舵を取って10度ばかり横揺れしながら続航し、南寅埼に近づいたころ、船体が左舷方の陸岸に向かって急速に落とされ始めたので右舵10度を取り、船首が右回頭を始めたとき、左舷正横から毎秒30メートルを超える突風を受け、13時10分神瀬灯台から048度1,180メートルの地点において、敬天丸は、原針路のまま、瞬時に復原力を喪失して右舷側に転覆した。
当時、天候は雨で風力11の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、鹿児島地方全域に大雨、洪水、暴風、波浪警報が発表されていた。
転覆の結果、敬天丸は、神瀬に打ち付けられ、中央部付近で二つに分断されて大破し、回収されたのち廃船処理され、また、いかだは付近の海岸に漂着し、のち回収された。
A受審人と乗組員2人は、海中に投げ出されたが、船体につかまっているうち神瀬に漂着して上陸し、4時間後に僚船により救助された。

(原因)
本件転覆は、台風の接近により、大雨、洪水、暴風、波浪警報力が発表されていた状況下、流出したいかだを回収するにあたり、荒天に対する配慮が不十分で、発航を取り止めず、鹿児島県桜島西方沖合で発見したいかだを曳航中、左舷正横から突風を受け、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、台風接近により、鹿児島県全域に大雨、洪水、暴風波浪警報が発表されていた状況下、流出したいかだを回収するにあたり、捜索海域が暴風雨圏内に入って風雨ともに増勢する状況にあることを認めた場合、いかだ発見後の曳航にはなお一層の困難が予想され、船体等が危険な状態に陥るおそれがあったから、発航を取り止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、北寄りの風で波浪が高くならないので、いかだを曳航しても何とか安全に航行できるものと思い、発航を取り止めなかった職務上の過失により、いかだを曳航中に左舷正横から突風を受け、復原力を喪失して転覆を招き、敬天丸を全損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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