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1999年(平成11年)

平成10年仙審第57号
    件名
プレジャーボート弘沙丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成11年7月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、上野延之、内山欽郎
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:弘沙丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船外機等に濡れ損、操舵室の風防などに破損

    原因
気象・海象に対する配慮不十分(磯波)

    主文
本件転覆は、高い磯波の発生に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月20日08時10分
福島県塩屋埼沖
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート弘沙丸
登録長 5.90メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 58キロワット
3 事実の経過
弘沙丸は、船外機2台を備えたFRP製プレジャーボートで、A受審人が単独で乗り組み、友人4人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成10年7月20日05時50分福島県四倉港を発し、全員が救命胴衣を着用して塩屋埼沖合の浅深礁に向かった。
ところで、浅深礁は、塩屋埼から東南東1.2海里のところに位置する北東から南西方向に約500メートル延びた水深約10メートルの礁域で、更に同礁から塩屋埼までの間に礁脈が続いており、そのほぼ中央付近に水深が更に浅く起伏の大きい浅礁域があり、多少のうねりや風波浪によって高い磯波が発生しやすい海底地形になっていた。
A受審人は、かねて友人との魚釣りを計画していたところ、浅深礁付近がうねりや風浪の影響で不規則な高い磯波が発生しやすいところであることを知っていたものの、前々日から発令されていた強風警報の解除を待って同礁での魚釣りに向かった。
発航後、A受審人は、自ら操船して海岸線沿いに沖合を南下しながら、海岸付近には高い波浪が生じている状況を認めたものの、沖合は比較的穏やかで、浅深礁付近には数隻の釣り船も認められ、07時同礁に至り魚釣りを始めた。その後、弱い北流の影響を受けながら機関を適宜使用して釣りを続けたものの、釣果が芳しくなかったので、08時03分四倉港沖の釣り場に移動することにした。
ところがA受審人は、移動に先立って塩屋埼に近寄ったところでもう少し釣りを試してみようとした。しかし、前日までの強い風波浪の余波で海岸には高い波浪が打ち上げており、同埼沖の前示浅礁域には不測の高い磯波が発生しやすい状況であったが、同域への乗り入れを避けるなどの突然の高い磯波の発生に対する配慮を十分に行うことなく、同埼に多少近寄っても高い磯波に遭遇することはあるまいと思い、08時05分塩屋埼の南東方500メートル沖の浅礁域に進入した。
そこで、A受審人は、北に向首し機関を中立状態にして潮流に乗じながら釣りを再開したところ、間もなく大物を獲たのでそのまま釣りを続けた。08時09分少し過ぎ同大物を獲たポイントに戻すつもりで反転しようとしたとき、突然右舷正横方向に発生した高い磯波の来襲を受け、辛うじて転覆を免れたものの、続いて発生した第2波に対して急いで船首を立てようとして機関を前進にかけ右舵をとって約40度右方に回頭したとき、同磯波に船首を持ち上げられ、その直後、船体が左舷側に大きく傾斜して復原力を喪失し、08時10分塩屋埼灯台から真方位077度700メートルの地点において、そのまま左舷側に転覆した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、塩屋埼沿岸付近には高い波浪が発生していた。
転覆の結果、A受審人ら乗船者全員は、海中に放り出されて横転した弘沙丸に掴まって漂流していたところを、付近沖合で操業中の地元漁船に救助された。一方、船体は、船外機等に濡れ損及び操舵室の風防などに破損を生じたが、四倉港マリーナに引き寄せられ、のち船外機の水洗い及び部品等の交換などにより修復された。

(原因)
本件転覆は、塩屋埼沖の浅深礁付近で釣りを行う際、高い磯波の発生に対する配慮が不十分で、同埼沖の水深の浅い礁域に進入し、突然発生した高い磯波の来襲を受け船体が大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、塩屋埼沖の浅深礁付近で釣りを行う場合、前日までの強い風波浪の余波で水深の浅い礁域には高い磯波の発生するおそれがある状況であったから、特に同埼沖の浅深礁域に乗り入れることのないよう、高い磯波の発生に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、付近水域に大きな波浪を認めなかったので、塩屋埼に多少近づいても高い磯波に遭遇することはあるまいと思い、高い磯波の発生に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、同埼沖の浅礁域に乗り入れ、釣りを再開して間もなく突然発生した高い磯波の来襲を受けて船体が大傾斜して、復原力の喪失により転覆を招き、船外機等に濡れ損及び操舵室の風防などに破損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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