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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月20日11時00分 関門港早鞆瀬戸 2 船舶の要目 船種船名 引船第五はつひ丸
作業船ひさ丸 総トン数 19トン 全長 14.80メートル 登録長
8.50メートル 幅 2.60メートル 深さ 1.00メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 661キロワット
51キロワット 3 事実の経過 第五はつひ丸(以下「はつひ丸」という。)は、2基2軸の鋼製引船で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.5メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成9年10月20日09時30分ひさ丸を曳航して関門港小倉区日明船だまりを発し、山口県下関市長府に向かった。 ひさ丸は、鋼製作業船兼交通船で、無人で、空倉のまま船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同船の船首両舷から延出した直径各45ミリメートル長さ各3メートルの化学繊維製ロープに、はつひ丸の船尾から曳航索として延出した直径45ミリメートル長さ45メートルの化学紡維製ロープを連結し、同船に引かれていた。 A受審人は、10時38分巌流島灯台から059度(真方位、以下同じ。)1,300メートルの地点で、針路を041度に定め、機関を6.0ノットの半速力にかけ、折からの南西流に抗して進行し、出航前、潮汐表を見て関門海峡早靹瀬戸における潮流が強いことを知っていたことから、後方のひさ丸の状態に気を配ったり、火ノ山下潮流信号所の潮流信号表示を監視したりしながら続航した。 A受審人は、10時42分これまで7ノットであった同信号所の潮流信号表示が8ノットとなり、西流の最強に近づき、今後の流速が増勢する傾向であることを知ったが、比較的潮流が弱い門司埼に接近して東行すればなんとか通航できるものと思い、強潮流に圧流されて危険な状況に陥らないよう、最寄りの門司第1船だまりや同第2船だまりで潮待ちするなど、潮流に対する配慮を十分に行うことなく、同時53分門司第2船だまり防波堤南灯台から254度330メートルの地点に達したとき、針路を同瀬戸に向かう013度に転じて進行した。 こうしてA受審人は、後方のひさ丸に気を遣いながら続航し、10時57分関門橋橋梁灯(R1灯)から243度70メートルの地点に達したとき、門司埼を右舷側に50メートルばかり離して並航する038度の針路に転じたところ、まもなく同埼を越えてくる強い逆潮流を右舷船首に受けるようになり、操船が困難な状態で進行するうち、同時59分ひさ丸が左舷側に急激に圧流され、横引き状態となったことから、左舵少しを取って減速したけれども、11時00分門司埼灯台から231度170メートルの地点において、ひさ丸が左舷側に大傾斜して復原力を喪失し、船首を358度に向けて左舷側に転覆した。 当時、天候は晴で風力1の東風か吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、転覆地点には4.4ノットの南西流があった。 A受審人は、転覆したひさ丸を曳航したまま左回頭して引き返し、関門港門司区西海岸ふ頭6号岸壁に着けた。 転覆の結果、ひさ丸は機器に濡損を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件転覆は、はつひ丸でひさ丸を曳航し、関門港早靹瀬戸を東行する際、潮流に対する配慮が不十分で、強潮流に抗して曳航し、ひさ丸が右舷側からの強い逆潮流を受け、急激に圧流されて横引き状態となり、左舷側に大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、はつひ丸でひさ丸を曳航し、関門港早靹瀬戸を東行する場合、西流の最強に近づき、流速増勢の傾向にあることを知ったのであるから、強潮流に圧流されて危険な状況に陥らないよう、最寄りの船だまりで潮待ちするなど、潮流に対して十分に配慮すべき注意義務があった。しかるに、同人は、比較的潮流が弱い門司埼に接近して東行すればなんとか通航できるものと思い、潮流に対して十分に配慮しなかった職務上の過失により、同埼沖合を東行するうち、ひさ丸が右舷側からの強い逆潮流を受け、急激に圧流されて横引き状態となり、左舷側に大傾斜して復原力を喪失し、転覆する事態を招き、同船の機器に濡損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |