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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年4月2日01時30分 奄美群島枝手久島北岸沖 2 船舶の要目 船種船名
漁船吉丸 総トン数 6.15トン 登録長 10.80メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 40 3 事実の経過 吉丸は、木製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、はえ縄漁業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成10年3月31日11時40分鹿児島県名瀬港を発し、奄美大島北西方の横当島付近の漁場に向かった。 A受審人は、16時ごろ横当島西方1.5海里の漁場に至って操業していたところ、天候が悪化する旨の気象情報をラジオで入手したので操業を打ち切り、焼内湾は風波が遮へいされて荒天でも操業できることから、翌々日早朝から同湾で操業を行うこととし、奄美大島で避泊することにした。 A受審人は、以前に奄美大島大和村今里沖で錨泊したことがあり、今里沖は、波高3メートルくらいまでは無難に錨泊でき、南寄りの風波は遮へいされるが北寄りの風波は遮へいされないことを知っていたが、たいした時化にはなるまいと思い、風向風力の変化など気象海象に対する配慮が不十分で、風波が遮へいされる焼内湾に向かわず、19時ごろ漁場を発して今里沖に向かい、4月1日00時30分今里沖の立神64メートル三角点から104度(真方位、以下同じ。)760メートルの地点で錨泊して休息した。 A受審人は、12時ごろ目覚めたが、南寄りの風が吹いていて波高も約2.5メートルで天候悪化の兆しもなく、ラジオの気象情報を入手しなかったので、同日05時50分に奄美地方に波浪注意報が発表されていたことも知らないまま、翌日の操業準備を行っていたところ、19時前ラジオで風が強くなる旨を聞いた。 A受審人は、風向が北寄りに変わって波高が3メートルを越えるようになったので、21時50分錨地を発して焼内湾へ向かい、22時10分今里沖の立神64メートル三角点から329度220メートルの地点で、針路を252度に定め、波が高くて全速力で航行できないことから機関を極微速力前進にかけ、1.5ノットの対地速力で進行した。 吉丸は、翌2日01時30分枝手久島ユンゴ山159メートル三角点から359度960メートルの地点に達したとき、大波を右舷正横方から受け、左舷側に大傾斜して復原力を失い、船首を252度に向けて左舷側に転覆した。 当時、天候は雨で風力7の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、前日19時10分奄美地方に発表された強風、波浪注意報が継続されていた。 転覆の結果、A受審人は自力で陸岸に泳ぎついたが、船体はさんご礁に打ち上げられて大破し、廃船となった。
(原因) 本件転覆は、鹿児島県奄美大島北西方の横当島付近の漁場で操業中、天候が悪化する旨の気象情報を入手して避泊する際、風向風力の変化など気象海象に対する配慮が不十分で、北寄りの風波は遮へいされない奄美大島北岸の大和村今里沖に避泊し、風波が増勢したことから避泊地を発して焼内湾へ向け航行中、右舷側から大波を受けて左舷側に大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、鹿児島県奄美大島北西方の横当島付近の漁場で操業中、天候が悪化する旨の気象情報を入手して避泊する場合、風向風力の変化など気象海象に対する配慮を十分行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、たいした時化にはなるまいと思い、風向風力の変化など気象海象に対する配慮を十分行わなかった職務上の過失により、北寄りの風波は遮へいされない奄美大島北岸の大和村今里沖に避泊し、風波が増勢したことから避泊地を発して焼内湾へ向け航行中、右舷側から大波を受けて左舷側に大傾斜し、復原力を喪失して転覆する事態を招き、船体を大破させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |