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1999年(平成11年)

平成11年函審第27号
    件名
漁船貴丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成11年9月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、大山繁樹、古川隆一
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:貴丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
主機及び油圧機器その他に濡損、のち廃船処分

    原因
漁労作業不適切(底建網のはえ綱定置用錨の揚収作業)

    主文
本件転覆は、漁労ブームにより底建網のはえ綱定置用錨の揚収作業中、同錨に絡んだ他の底建網のはえ綱を解くにあたり、同はえ綱の仮止め措置が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月17日09時10分
北海道内浦湾砂原漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船貴丸
総トン数 2.32トン
全長 11.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 9
3 事実の経過
貴丸は、底建網漁業に従事する無甲板の和船型FRP製漁船で、船体中央部の少し後方に船底からの高さ約4メートルのマスト1本を立て、その基部から高さ約1メートルのグーズネックに長さ約4.3メートルのブームを備え、マスト前部に油圧ウインチ1台が設置され、その前部が作業場となっており、作業場前部右舷側に油圧揚網機が設置され、船首部に物入れと高さ約1メートルのビットが設けられていた。
マストの後方には、その基部に接して機関室囲壁が設けられ、その後面に機関操作レバーがあり、これと長い舵柄で操船するようになっていて、船尾両舷側に各1本の高さ約0.6メートルのビットが設けられていた。また、ブームは、カーゴフックが作業場後部に下げられるよう、トッピングリフトと船首端に係止したステーにより正船首方に約70度の仰角で固定されていた。
作業場の船底部には船底中央から約30センチメートル(以下「センチ」という。)の高さで木製底板が張られ、船体中央内側の舷縁の高さが約40センチで、その両舷内側には船首から機関室囲壁船首側付近にかけてロープなどを係止する目的で、レールが取り付けられていた。
貴丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成11年2月17日08時00分砂原町掛澗漁港を発し、同町度杭埼(どくいさき)沖合の底建網設置地点に向かい、同時20分砂原港北防波堤灯台から295度(真方位、以下同じ。)2,600メートルの地点に至り、機関を停止回転として漂泊し、底建網のはえ綱定置用錨の揚収作業を開始した。
この底建網のはえ綱は、底建網を定置する錨索で、東西方向に延びる長さ約15メートルの障子網用綱の両端に浮玉が取り付けられ、両浮玉にその方位線から45度の角度で長さ80ないし120メートル直径18ミリメートルの合成繊維製ロープのはえ綱4本が張られ、北東方のはえ綱は先端に取り付けた150キログラムの定置用土のう、他の3方向のはえ綱は同様に取り付けた45キログラムの定置用錨によりそれぞれ定置されており、既にはえ綱上方に取り付けられている建網部が撤去されていた。
A受審人は、はえ綱定置用錨の揚収に先立ち、北東方の定置用土のう付きはえ綱を浮玉から外して揚網機で巻き、船体が同土のうの真上付近にきたとき、はえ綱を同土のう付近で切断して同綱のみを揚収し、次いで、08時35分南西方の定置用錨に取りかかり、はえ綱を浮玉から外して揚網機で巻き揚げ、同錨が水面付近まで揚がったとき、錨環にカーゴフックを掛けて同錨をブームで吊り、錨環に係止していたはえ綱を解き、揚網機のドラムに巻かれたはえ綱を作業場に巻き出したのち、同錨を作業場に取り込んで作業場後部の左舷側舷縁付近に載せた。
A受審人は、続けて北西方のはえ綱定置用錨の揚収にかかろうとしたが、このころから北西風が吹き始め、波が立つようになったことから時間を要すると思い、これを最後に揚収することとし、09時00分南東方のはえ綱定置用錨の揚収に取りかかった。
A受審人は、はえ綱を浮玉から外して揚網機で巻いているうち、更に北西風が強まり、同方向からの波が高まってきたので、船首を風に立てて同作業を続けていたところ、他の底建網のはえ綱が自船のはえ綱の上に重なっていることに気付き、その状況を見ながらはえ綱を巻き、自船の定置用錨が水面付近まで揚がったとき、他の底建網のはえ綱が自船のはえ綱定置用錨に絡んでいるのを認め、これを同錨から解くため、備えていた四爪錨を絡んだ錨のはえ綱の浮玉側に引っ掛けて船首に引き寄せ、四爪錨の錨索をレールに固縛した。
ところで、錨にからんだはえ綱の外側と四爪錨に掛けたはえ綱の浮玉側に支持索を回し掛けしてレールに固縛しておかないと、四爪錨に掛けた浮玉側のはえ綱が錨の絡みを解いているうちに船体の動揺などで突然爪から外れ、緊張していたはえ綱の張力が高いブームに吊り下げられた錨に掛かり、同錨が外方に振り出されて横引きされ、大傾斜するおそれがあった。しかし、A受審人は、他の底建網の浮玉側のはえ綱が四爪錨の爪から外れることはあるまいと思い、錨に絡んだはえ綱の外側と四爪錨に掛けたはえ綱の浮玉側に支持索を回し掛けしてレールに固縛するなどの適切な仮止め措置をとらなかった。
そして、A受審人は、船首が風波に向首した状態で、甲板員2人が見守るなか、カーゴフックを錨環に掛け、ウインチで錨を少し巻き揚げて錨に絡んだ他のはえ綱を解こうとしたとき、四爪錨に掛けた浮玉側のはえ綱が船体の動揺により突然四爪錨の爪から外れ、風波の影響で船体が左へ回頭して風波を右舷側から受けると同時に緊張していた同はえ綱の張力が高いブームに吊り下げられた錨にかかり、同錨が右舷方に振り出され、貴丸の船体が横引きされて右舷側に大傾斜し、大量の海水が舷縁から浸入して復原力を喪失し、09時10分砂原港北防波堤灯台から295度2,500メートルの地点において、南西に向首したまま右舷側に転覆した。
当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、潮候は低潮時であった。
転覆の結果、貴丸は、主機及び油圧機器その他に濡損を生じ、砂原漁港に引き付けられたが、のち廃船処分され、海中に投げ出されたA受審人と2人の乗組員は、来援した僚船に救助された。

(原因)
本件転覆は、北海道内浦湾砂原漁港沖合において、漁労ブームにより底建網のはえ綱定置用錨の揚収作業中、同錨に絡んだ他の底建網のはえ綱を解くため、浮玉側のはえ綱を四爪錨で右舷船首に引き寄せ、その錨索をレールに固縛した際、同錨に絡んだはえ綱の外側及び四爪錨に掛けたはえ綱の浮玉側との仮止め措置が不適切で、同定置用錨に絡んだはえ綱の外側と四爪錨に掛けたはえ綱の浮玉側に支持索を回し掛けしてレールに固縛しないまま、はえ綱の絡みを解こうとしたため、船体の動揺で四爪錨に掛けた浮玉側のはえ綱が爪から外れ、緊張していた同はえ綱の張力が高いブームに吊り下げられた錨に掛かり、同錨が外方に振り出され、船体が横引きされて大傾斜し、浸水して復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、北海道内浦湾砂原漁港沖合において、漁労ブームにより底建網のはえ綱定置用錨の揚収作業中、同錨に絡んだ他の底建網のはえ綱を解くため、はえ綱の浮玉側を四爪錨で右舷船首部に引き寄せ、その錨索をレールに固縛した場合、同錨に絡んだはえ綱の外側と四爪錨に掛けたはえ綱の浮玉側に支持索を回し掛けしてレールに固縛しておかないと、錨に絡んだはえ綱を解いているうちに四爪錨に掛けた浮玉側のはえ綱が船体動揺などで外れ、緊張していた同はえ綱の張力が高いブームに吊り下げられた錨に掛かり、同錨が外方に振り出され、船体が横引きされて大傾斜するおそれがあったから、同錨に絡んだはえ綱の外側と四爪錨に掛けたはえ綱の浮玉側に支持索を回し掛けしてレールに固縛するなどの適切な仮止め措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、他の底建網の浮玉側のはえ綱が四爪錨の爪から外れることはあるまいと思い、錨にからんだはえ綱の外側と四爪錨に掛けたはえ綱の浮玉側に支持索を回し掛けしてレールに固縛するなどの適切な仮止め措置をとらなかった職務上の過失により、船体の動揺で四爪錨に掛けた浮玉側のはえ綱が同爪から外れ、緊張していた同はえ綱の張力が高いブームに吊り下げられた錨に掛かり、同錨が外方に振り出され、船体が横引きされて大傾斜し、浸水して復原力を喪失して転覆を招き、機関に濡損を生じさせ、廃船処分させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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