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1999年(平成11年)

平成10年横審第101号
    件名
プレジャーボート第2大紀丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成11年4月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、猪俣貞稔、勝又三郎
    理事官
藤江哲三

    受審人
A 職名:第2大紀丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
機関に濡損等、同乗者3人が溺死、船長が溺水で1週間の入院加療

    原因
気象海象に対する配慮不十分(高波)、同乗者が救命胴衣着用せず

    主文
本件転覆は、気象海象に対する配慮が不十分で、河口付近の浅水域で隆起した高波を受け、大頃斜したことによって発生したものである。
なお、同乗者に死者が出たことは、救命胴衣を着用していなかったことによるものである。
受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月24日05時50分
三重県引本港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート第2大紀丸
総トン数 1.8トン
全長 9.32メートル
幅 2.29メートル
深さ 0.79メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 14キロワット
3 事実の経過
第2大紀丸(以下「大紀丸」という。)は、全通の甲板を有し、船内外機を備えた和船型のFRP製小型遊漁兼用で、最大搭載人員13人分の救命胴衣を備え、A受審人が単独で乗り組み、友人から依頼されてその釣り仲間6人が同乗し、船首0.2メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成10年5月24日05時45分三重県引本港の、船津川上流の白石湖の定係地を発し、河口南方沖合約500メートルの釣り場に向かった。
ところで、引本港の港域は、尾鷲湾の佐波留島北側水域で、くの字型に屈曲し北方に約3海里湾入した引本浦、河口付近で合流して同浦屈曲部の北西側に流入する船津川と銚子川との下流部、及び船津川左岸に連続する白石湖からなり、南東方からの波浪が尾鷲湾に進入すると浅水域となっている河口付近で波高が著しく高起する状況であった。このため白石湖を定係地とする船船が河口を迂(う)回して安全に出入航できるよう、河口から約200メートル上流の船津川左岸から約900メートル東方に伸び、引本浦の湾奥に通じる幅約20メートルの安全な水路(以下「水路」という。)が設けられていて、、大紀丸も、もっぱら水路を経由して出入航していたが、喫水の浅い船外機付きの小型船が海上模様の穏やかなときに限って河口を経由して出入航していた。
また、A受審人は、前日23日に友人から釣行の相談を受け、気が進まず一度は断ったものの、当日早朝に同乗者から再び電話を受けて行くこととし、南方海上に低気圧があって風雨が強まることが予想されたが、釣りの途中で天候等が悪化すれば引本浦の湾奥に移動するつもりで、自身を含め全員に救命胴衣を着用させないまま発航した。
こうして船津川に出たA受審人は、05時48分少し前引本港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から290度(真方位、以下同じ。)1,140メートルの地点において、186度の針路に定め、機関を回転数毎分1,200にかけて10.8ノットの対地速力とし、同川に沿って手動操舵で下航し、南東方からの波浪があれば河口付近で高波が隆起しやすいことを知っていたが、同時48分半河口の状況を一瞥(べつ)して高波を認めなかったことから大丈夫と思い、気象海象に対する配慮を十分に行うことなく、数日前の大雨で河口付近の土砂が流されて水深が増していることを知っていたこともあって、水路を経由する進路とせずに、河口を経由して引本浦に出ることとして進行した。
A受審人は、05時49分少し前防波堤灯台から272度1,110メートルの地点において、針路を河口に向く139度に転じて続航し、05時50分少し前河口に差しかかったころ、突然前方に高波が隆起したのを認め、波の衝撃を和らげるために機関を回転数毎分400に減じたところ、高波を船首に受けて右に振られ、左舵をとったものの、舵効なく右回頭を続け、05時50分防波堤B灯台から254度900メートルの地点において、229度に向首したとき、続いて隆起した波高約2.5メートルの高波を左舷正横方から受け、右舷側に大傾斜して復原力を喪失し、そのまま右舷側に転覆した。
当時、天候は雨で風力4の南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、海上は南東からの波浪がやや高く、強風波浪注意報が発表されていた。
転覆の結果、大紀丸は機関に濡(ぬれ)損等を生じ、のち修理され、同乗者B(昭和11年8月2日生)、同C(昭和17年1月22日生)、同D(昭和19年4月9日生)が溺(でき)死し、A受審人も近くの海岸に漂着し溺水で1週間の入院加療を受け、残りの同乗者3人は、同船につかまって近くの海岸に打ち上げられて無事救助された。

(原因)
本件転覆は、引本港において、船津川上流の白石湖から河口沖合の釣り場に向かう際、気象海象に対する配慮が不十分で、高波が隆起しやすい河口付近の浅水域を航行し、高波を受け右方に大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
なお、同乗者に死者が出たことは、救命胴衣を着用していなかったことによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、引本港において、船津川上流の白石湖から河口沖合の釣り場に向かう場合、南方海上には低気圧があることと、南寄りの波浪があれば河口付近の浅水域で高波が隆起することとを知っていたのであるから、気象海象に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、河口付近を一瞥して高波を認めなかったことから大丈夫と思い、気象海象に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、既設の安全な水路を航行することなく、河口から沖合に向かい、河口付近の浅水域で隆起した高波を受け、右方に大傾斜して復原力を喪失し、大紀丸の転覆を招き、機関に濡損等を生じさせ、同乗者3人が溺死するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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